亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 ノエルは記憶を失う前のルーチェのことをよく知っている人だ。世界で二番目に知っていると言っていた彼の口から聞かされた以前の自分は、今よりも随分子供っぽいようだ。

「そう……なのですね。私はノエルさんから魔法を教わっていたのでしたね」

「うん。聖女の力と魔法は別物でね。貴女は人を癒すことはできても、魔法に関しては全く駄目で……それで、聖王様が僕を呼び寄せたんだ」

 遥々マーズからね、とノエルは声を弾ませると、ルーチェが抱きしめる本に触れてきた。

 本越しに、何かが伝わってくる。淡い光を纏うノエルの手が、柔い熱とともに何かを送ってきた。

 それが何なのかは分からなかったが、本を通じて送られたそれは、ルーチェの胸の奥深くに沁みるように広がっていく。

「……あたたかい」

 ルーチェは目を閉じた。ノエルが何をしたのかは分からないが、このあたたかい光を知っているような気がした。

「その光は聖王様から授かったものだよ。邪なるものを祓う、導きの光」

「導きの、光……」

「同じ力を、貴女も使えるはずだ。聖なる光の力に、魔力は使わない。これは魔法ではないから」

 魔力を失ったルーチェは、魔法を使うことができない。だが、これは魔法ではないから、ルーチェでも使えるという。

 ルーチェは瞼を開け、ノエルの目を見つめ返した。