亡国の聖女は氷帝に溺愛される



 その日、ルーチェは調べ物をするために、城内にある大きな書庫を訪れていた。

 魔法やイージスに関する本はあるかとセルカに尋ねたところ、それならばと案内してくれた場所が書庫だった。ここには様々な国から取り寄せられた、あらゆる分野の本があるらしい。天井までびっしりと並ぶ本棚を見回しながら、ルーチェはゆっくりと息を吐いた。

「この中から探すのは大変ですね」

「だったら僕が手伝おうか?」

 セルカとルーチェしかいないはずの空間に、聞き覚えのある声が響く。後ろを振り返ると、ノエルが腕組みをしながら扉の傍に立っていた。

「ノエルさん……!」

 光の色の髪に、宝石のような碧色の瞳。少女と見間違うほどに美しい顔をしている少年は、ルーチェと目が合うとニッと勝ち気に微笑んだ。

「やあ、聖女。あれから元気にしてた?」

「ええ、元気です。ノエルさんは?」

「まあまあ元気。ここの氷帝さんはびっくりするくらい人使いが荒いね。毎日こき使われてるよ」

 ノエルは肩をすくめると、ケープマントを靡かせながら、ルーチェの側に歩み寄ってきた。彼の襟元ではオヴリヴィオ帝国の紋章の飾りが光っている。