亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 次の瞬間、ルーチェが両手を前に着きながら深々と頭を下げた。

「申し訳ございません……!許可もなく、触れてしまい」

「別に構わないが、何をしようとしていたんだ」

 ルーチェはええと、と歯切れの悪い返事をしてから、目を泳がせていた。その様子から、悪いことをしようとしていたわけではなさそうだ。

 暫くの間、ヴィルジールは一方的にルーチェを見つめていたが、それに耐えかねたのかルーチェが目を合わせてきた。

 菫色の瞳に、不思議な顔をしている自分が映っている。

「熱を、測ろうとしていたのです」

 ヴィルジールは目を瞬いた。

「触れただけで分かるのか?」

 ルーチェが頷いて、目を白い手へと動かす。

「触れた相手の身体に不調があったら、伝わる……ような気がして」

 曖昧な言い方をしたのは、不確かなものだからだろう。それは聖女の力なのか、ルーチェだけが持つ特別な力なのかは分からないが。

 触れて、確かめる。まるで母が子にするようなことをされたのは、いつ以来だろうか。もういない母親のことを思い出したヴィルジールは、それを振り払うように目を閉じて、ルーチェの名を呼んだ。

「ならば肩を貸せ」

「肩を、ですか?」

 戸惑いながらも、ルーチェが寄ってきて、隣に腰を下ろす気配がした。風でふわりと揺れたルーチェの髪が、ヴィルジールの頬を掠める。

 どことなく懐かしい花の匂いに誘われるように、ヴィルジールは意識を手放した。