亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 扉の向こうはテラスだった。引き寄せられるように柵の向こうを覗き込むと、この城が随分と高い場所にあることが分かる。

 巨大な城門の向こうには、広場を囲うようにして煉瓦造りの家が並んでいる。景観を重視して造らせたのか、とても色鮮やかだ。さらにその外側には、門のある邸宅が並んでいる。貴族の別邸だろうか。

 夢中になって眺めていると、すぐ隣にヴィルジールが立つ気配がして、少女は顔を向けた。

 ヴィルジールは「見えるか」と少女に問うた。辿るように目線の先を追っていくと、街並みではないものを見ているようだった。しかし街の外には何もない。

 いや、何もないことがおかしいのだ。草も木も水も、何も芽吹いていない大地を、ヴィルジールは見つめている。そのことに気づいた少女は、もう一度ヴィルジールの顔を見つめた。

「五日前、国がひとつ滅んだ」

 ヴィルジールは前を見据えたまま、表情ひとつ変えず、抑揚に乏しい声で言った。

「突如巨大な光を放ったかと思えば、国土は瞬く間に枯れ、草木ひとつ芽吹かぬ大地と化したそうだ。──それは、お前がやったのか?」

「────」

 少女は瞳を揺らした。身に覚えのないことだと叫びたかったが、ヴィルジールの瞳があまりにも冷たくて、声が喉元を越えてくれなかったのだ。