私の居場所は、先生の隣!

 教科書が隣にありますよ……みたいな感じでノートを開いた。

 あとは授業時間の五十分を、どう乗り切るか。

 黒板の上の時計をじっと見つめる。

 先生の声なんて、全然聞こえてこない。

 今は勉強してる場合じゃない。

 チョークで数式を書く時の、カツカツという音が耳に響いてくる。

 あと何分?……ダメだ全然たってない。

 「この式を代入すると……森川、ここの値はどうなる?」

 「……え⁉」

 森川というのは私の苗字。クラスで他にはいない。

 ……私に当たられたってこと?

 全然、話を聞いてなかった。

 どうしよう……。

 「森川?」

 「それは‥‥」

 私は席から立った。

 分かりません……で、終わればいいけど、教科書を忘れてきました……まで遡られると……。

 クラス中の注目を集めている。視線が刺さってるのが分かる。

 「…………」

 もうダメだ。

 諦めたその直後、

 “……38……”

 「…………」

 どこからか小さな声が聞こえてきた。誰の声だったか……聞き覚えはあるけど、思い出せない。

 38?

 もしかして……。

 思い切ってその数字を言ってみた。

 「38です」

 「はい、正解です」

 先生は私が言った数字を=の後ろに書いた。

 私はため息をついて椅子に座る。

 「…………」

 恐る恐る……っていう感じで、後ろに視線を向ける。

 さっきの声は教育実習にきた皆川先生……だと思う。

 皆川先生は、私が見てるのに気づいているのかいないのか、俯いて教本を見つめている。

 「…………」

 私を助けてくれた……はずなのに、今は全くの知らん顔。

 少しだけ癖毛の前髪に隠れて、表情が良く見えない。

 いけない、いけない。

 あんまり後ろを向いてると、変に思われる。
 

 そうして何とか無事に授業が終わった。

 終業のチャイムが鳴ると、皆川先生は椅子を畳んで、すぐにいなくなってしまった。
 
 いたとしても、お礼を言うのもおかしいし……。
 
 何だか胸の中がモヤっとする。