「…………」

 部屋に入るとすぐにカバンをベッドの上に投げる。

 それから……多分、無表情になる。

 ずっと笑ってるから、顔が疲れちゃった。
 
 両手を広げてベッドに倒れる。

 「…………」

 天井の白い模様が見える。

 でも自分の部屋が持てたのは、中学に入ってから。

 ずっとお姉ちゃんと一緒だった。

 中学からは勉強がんばらないとダメだぞって……その為の自分の部屋。

 だから結局ここは勉強部屋。

 私が自由に何かをする場所じゃない。

 お父さんもお母さんも、勉強が出来ればもう何も言ってこない。

 勉強が出来れば、誰でもいいみたい。

 もう嫌だ……。

 「…………嫌だな」

 顔の上に腕を乗せて、私は口から出てくるその言葉を飲み込んだ。

      ☆☆☆☆

 その日はいつもと違うことがあった。

 「今日から三週間、このクラスの授業を担当する教育実習生の皆川遥先生です」

 担任の晶子先生が朝のホームルームで、そんな事を言ってきた。

 ミナガワ・ハルカ……女の人?‥‥って、最初は思った。

 でも担任の先生と一緒に入ってきたのは、スーツを着た背の高い男の人。

 「皆川先生は、東都帝国大学で、数学を専攻しています。授業中や休み時間でも気軽に声をかけてください」

 晶子先生は続けた。それから皆川先生に手を向ける。

 「……皆川遥です。よろしくお願いします」

 皆川先生は、低くて落ち着いた声でそれだけ言った。

 先生の髪は少し長めでサラサラ。顔だちはシュッとしてる。

 何となく、クラスで良く話題にあがっている『押し』の誰かに似てる。

 イケメンで、かっこいい……。

 でも……押しの人達と違って無表情。なんとなく睨まれてるみたい。

 自己紹介の後のお辞儀も、ちょっと体を傾けただけ。

 「…………」

 まわりのコの顔を見渡してみる。

 やっぱりどう反応して良いか困った表情になってるし。