「陽菜、宿題はきちっとやってしまいなさい」
 
 玄関を開けた瞬間、おかえりの言葉の前にそれ。

 お母さんはいつもそう。

 「………うん」

 それだけ言って、私は二階にある自分の部屋にあがっていく。

 いつもちゃんとやってるのに。

 どうして同じことばっかり、言ってくるの?

 そんなに私が信じられない?


 陽菜……ヒナっていうのは、私の名前。
 
 周りの友達は『かわいい名前』って言ってくれるけど……
 
 私は好きじゃないんだ。
 
 何だかね、ずっと押さえつけられてるような感じがするの。
 
 でも笑って『ありがとう』って返してる。
 
 もし変な事を言ってしまって、それで雰囲気がおかしくなったら……。
 
 友達がいなくなってしまう。
 
 そうなったら、ゾっとする。
 
 中学も二年になると、クラスの仲良しグループの顔は、もう変わらない。
 
 私のその中の一つに入ってる……と思ってる。
 
 何でグループなんか作ってるんだろうって思ってる。
 
 みんな、昨日見た動画の話とか、誰が『押し』……で、その人がどれだけ凄いかで盛り上がってる。
 
 私も『何とかの何とか君が、かっこよくて好き!』って言ってるけど、
 
 ほんとはぜんっぜん、興味がない!
 
 グループのみんなに話を合わせているだけ。
 
 だけど、そんな事は絶対に言えないよ。
 
 代わりに言ってるのはね……。
 
 『うん、いいよね』
 
 って感じで、話を合わせて笑い返してるんだ。
 
 みんな、そんなに好きなのかな。

 私と同じで、周りと合わせてるだけなのかな……。

 やっぱり、そんなことは聞けない。

 「ねえ、ヒナちゃんも、彼、かっこいいと思うよね?」

 どうして同じことばっかり言ってくるの?

 いつも同じ返事を返してるじゃない。

 それとも、たまには、

 『全然』って言葉が聞きたいの?

 ねえ……!
 
 もう、面倒臭い!

 家でも、学校でも……。

 何も言われないように合わせなきゃならない。

 だったら、私って何?

 私じゃなくても、誰でもいいなら、

 こんなに私が、がんばらなくてもいいでしょ?……て思うんだけど。