尚人は私が過去のことを知りたがると、いつも悲しそうな苦しそうな顔をする。

私が苦しんでいると思っているのかな?

理由は何にしても、尚人が傷ついた顔をするから私も過去についてはなるべく触れないようにしようと思った。

記憶を思い出せなくても、尚人は隣にいてくれるから。

それなら無理して思い出すことはないよね。


「柴宮さん。ご飯の時間ですよ」


尚人が帰ってから、お母さんが前に暇つぶしで持ってきてくれた小説を読んでいると、看護師の人が夕食を持って病室に入ってきた。


「また魚ですか?もっとステーキとか焼肉とか、味の濃いものが食べたいです〜」

「我慢してね。いきなりそんなの食べちゃったら、柴宮さんの胃がびっくりしちゃうのよ。…あら?そのしおり、とても綺麗ね」


読みかけのページにしおりを挟もうとすると、看護師の人がしおりを指差してきた。


「え?あ、はい。どこで買ったのか覚えてないんですけど、元から持ってたみたいで」

「買ったというよりは、手作りっぽくもあるわね」

「え?」


真ん中に青い小さな花を三つ挟んだ透明なしおりは、シンプルでいてとても綺麗でお気に入りだ。

だから私がどこかで買ったのだとばかり思っていたけど、たしかに言われてみれば、作ったものにも見える。