「…ああ」

「その制服…私と同じ学校か。私ね、もうしばらく入院してないといけないんだって。だから一緒に通えるのはもう少し先になっちゃうな」


神谷くんはなんと言ったらいいかわからないといった顔で、悲しそうに顔を歪めていた。


「…ごめんね、何も覚えてなくて」

「いや、一番辛いのは、花楓だろ」


私よりも辛そうに今にも泣き出しそうな顔をしている神谷くんに耐えられなくなり、ぱっと無理矢理笑顔を作る。


「そういえば、さっきお母さんが“彼氏のことも何も覚えてないのね”って呟いてたんだけど、私って彼氏いたの?」


空気を明るくしたくて話題を変えたつもりが、ハッと神谷くんが驚いたように目を見開いて固まってしまった。


「あ、あの、神谷くん?」

「…ああ、ごめん。花楓の彼氏は…俺だよ」

「え?」


神谷くんは悲しそうに優しく笑った。

そうかとやっと理解する。さっきから悲しそうに苦しそうにしていたのは、私が彼氏である神谷くんのことも全部忘れてしまっているからなんだ。

私はなんて最低なんだ。


「そう、だったんだ。本当にごめん。そりゃ傷つくよね。早く思い出せるように私も頑張るから」

「…いや、いいんだ。おまえが無事だったなら、それでいい」


ゆっくりと近づいてきた神谷くんが、そっとここにいるかを確かめるように私の頬に手を当ててきた。

その手はひんやりと冷たくて少しだけ気持ちが良かった。