…そうだ。小学生の男の子が道路を渡っていたところで、信号無視をしてきた車が突っ込んできて、咄嗟に庇おうと私も飛び出した。
その時に、一緒に学校から帰っていた直樹が私に向かって大声で名前を呼んできて、それから私を強く押してきた。
男の子に覆い被さりながら倒れた私は、そのまま地面に頭を強く打ちつけて意識を失って…。
「…直樹は、死んじゃったの?」
尚人が唇を噛み締めながら、固く拳を握って何も言わずに俯いた。
だけどそれが全てを肯定していた。
「花楓になんて言えばいいかわからなかった。正義感の強いおまえは、きっと何を言ったとしても私のせいで、って自分を責めて悲しむだろうと思ったから。俺じゃおまえを元気づけてあげられないから。だけど花楓は、全てを忘れていた。自分のことも、兄貴のことも、全部。花楓が記憶を思い出して傷つかないように、俺は彼氏だと嘘をついた。花楓のために始めた嘘だったけど、だんだんとなくしたはずの花楓の気持ちを思い出してきて、このままずっと兄貴のことなんて思い出さないで俺の彼女として俺だけを見て隣にいてほしいと思っちゃったんだ。俺はずっと、おまえの好きな人になりたかったから」
静かに涙を流す尚人に、私は何も言い返せなかった。
「だけど、やっぱり無理だったな。花楓が兄貴を忘れられるわけがない。俺じゃ兄貴の代わりになれるわけがないんだよ」
勿忘草のしおりに、私の涙がこぼれ落ちた。
「ごめんね直樹…。忘れてて、ごめん…っ。私を庇って、死なせて…ごめ…ん…っ」
直樹に会いたくてももう会えない。
その時に、一緒に学校から帰っていた直樹が私に向かって大声で名前を呼んできて、それから私を強く押してきた。
男の子に覆い被さりながら倒れた私は、そのまま地面に頭を強く打ちつけて意識を失って…。
「…直樹は、死んじゃったの?」
尚人が唇を噛み締めながら、固く拳を握って何も言わずに俯いた。
だけどそれが全てを肯定していた。
「花楓になんて言えばいいかわからなかった。正義感の強いおまえは、きっと何を言ったとしても私のせいで、って自分を責めて悲しむだろうと思ったから。俺じゃおまえを元気づけてあげられないから。だけど花楓は、全てを忘れていた。自分のことも、兄貴のことも、全部。花楓が記憶を思い出して傷つかないように、俺は彼氏だと嘘をついた。花楓のために始めた嘘だったけど、だんだんとなくしたはずの花楓の気持ちを思い出してきて、このままずっと兄貴のことなんて思い出さないで俺の彼女として俺だけを見て隣にいてほしいと思っちゃったんだ。俺はずっと、おまえの好きな人になりたかったから」
静かに涙を流す尚人に、私は何も言い返せなかった。
「だけど、やっぱり無理だったな。花楓が兄貴を忘れられるわけがない。俺じゃ兄貴の代わりになれるわけがないんだよ」
勿忘草のしおりに、私の涙がこぼれ落ちた。
「ごめんね直樹…。忘れてて、ごめん…っ。私を庇って、死なせて…ごめ…ん…っ」
直樹に会いたくてももう会えない。

