それからやってきた医者だと名乗る優しそうなおじいちゃん先生に言われるがままに検査を受け、私は事故による頭部損傷により一時的な記憶喪失だと診断された。

駆けつけるようにしてやってきたお母さんとお父さんのことも、私は忘れてしまっていた。

私は私という人間についてすらも、何もわからなかった。


「あなたの名前は、柴宮(しばみや)花楓。16歳。つい三日前に誕生日を迎えた高校一年生よ」


お母さんと名乗る女の人から、私の名前と年齢について教えてもらった。

今は四月の下旬で、私はつい最近高校生になったばかりのようだった。

病室の壁にかけられているブレザーの制服を見てみても、何一つ思い出すことはできなかったけど。


それから、私がどういう人だったのかもお母さんとお父さんは苦しそうに笑いながら教えてくれた。

昔からやんちゃな性格で困っている人を放っておけなく、一週間前に学校からの帰り道で車に轢かれそうになっていた小学生の男の子を庇って事故に遭い、それからずっと眠っていたそうだ。

頭を強く打ったことの他に目立った怪我はなく、記憶喪失も一時的なストレスによるものだと診断された。

ただ、失った記憶が戻るかについては不明だと。


「…花楓」


黒髪の男の子が恐る恐るといった様子で、病室の扉から顔を覗かせてきた。


「…あ、さっきの。ごめんね、私記憶喪失になっちゃったみたい。あなたは私の大切な幼なじみ、なんだよね?」


お母さんに私が目を覚ました時に隣にいたのは、幼なじみの神谷尚人(かみやなおと)だと教えてもらった。