「…あの、黄色いチューリップの花言葉って、何か知ってますか?」

「黄色いチューリップ?たしか…」


看護師の人がいなくなってからも、私は呆然と病室の壁を見つめたまま座り込んでいた。

私はなんて最低な人間なんだろう。

記憶を全部なくして、なかったことにしようとしていたなんて。

思い出も交わした会話も、想いも全て。


「花楓?どうしたんだ、そんなところに座り込んで」


どのくらい座り込んでいたのだろう。

尚人が肩に手を添えて私の顔を覗き込んできたところで、ハッと我に返る。


「花楓?」

「…黄色いチューリップの花言葉は、“報われない恋”」


尚人がハッとしたように目を見開いていた。


「ニ年前に、近所に咲いていた黄色いチューリップを見て、尚人が私に言ってきたよね。“俺にお似合いの花だよな”って。その時の私は何を言っているのか全くわからなかった。花言葉というものを知らなかったから。だけどその二日後に、私の誕生日に勿忘草のしおりをもらって、花言葉というものを教えてもらったの。だから、黄色いチューリップのことも思い出して自分で調べたことがある。その時にやっと、尚人の気持ちを知ったんだよ」