ついに今日の午後に退院することになり、最終検査も無事終了した。


「あの、先生」


もう行って大丈夫だと言われ、診断室を後にしようとしたが扉に手をかけたまま振り返る。


「私の記憶は、いつか戻るんですか?」

「んー…話を聞く限り、ぽつぽつと思い出してきてはいるようだからね。記憶っていうのはなくそうと思っても完璧になくなるものではないんだよ。柴宮さんの奥底に眠っているだけで、あることがきっかけで一気に思い出すことだってある。だからそう焦らなくてもいいと思うよ。柴宮さんの場合は、きっと心理的ショックも相まってだからね」

「…え?それって、どういうことですか?」

「君が自分で思い出さなければいけないよ。ちゃんと別れを告げるためにもね」


それ以上お医者さんは何も教えてくれる気はなさそうで、会釈をして診察室を後にする。

私はやっぱり、何かを忘れてしまっているんだ。

それはきっと忘れてはいけなかったこと。思い出さなければいけないこと。


「…青い花」


病室で荷物の整理をしていると、手を滑らせて小説を床に落としてしまいその拍子にしおりが飛び出した。

星の形をした青い花は、やっぱりどこか見覚えがある気がする。