「…ああ、そうだよ。花楓は今、幸せだろ?」

「え?…うん、幸せだよ。尚人がそばにいてくれて、お母さんもお父さんも優しいし。誰も私が記憶をなくしていても責めてくることはない。今の私のことも受け止めてくれていて、わからないことが苦しい時もあるけどそれでも今幸せだと思ってるよ」

「…だったら、それでいいんだよ。花楓は何も思い出そうとしなくていい」


さっきの原麻里香ちゃんが言おうとしていた言葉。


–––「え?そうなの?じゃあなんでそんなに…」


“普通なの?”と、そう続く気がした。

私は、何を忘れてしまっているの?

尚人は思い出さなくていいと言っていたけど、本当にそうなの?

幸せでこれ以上何も望むものはないはずなのに、それなのにどうして私はいつも心に穴が開いている気がするんだろう…。

大切な何かをなくしてしまったような、そんな気がする。