「だ、だって…!」


不意打ちに近くなった距離もそうだし、尚人がさりげなく手なんて握ってくるから…。

頭では彼氏だとわかっているけど、それでもこういうのにはまだ慣れない。


「花楓が転ばないようにしっかり繋いでおかないと」


恋人繋ぎに繋ぎ方を変えてきた尚人は、反対の手でぽんぽんと優しく私の頭を撫でると歩き出した。

赤くなった顔を隠すように俯きながら、繋いだ手にきゅっと力を込める。

幸せだなぁ。尚人が隣にいてくれるだけで、毎日すごく幸せ。

…だからなのかな。この幸せが壊れてしまうような漠然とした不安に襲われるのは。

記憶をなくしているくせに、幸せだと思ってしまっていることに罪悪感を感じてしまうのは。


「少し休憩するか。飲み物買ってくるから、花楓はここでちょっと待ってて」


桜並木を抜けると、今度は色とりどりの花が咲いている花壇が並んでいて、黄色いチューリップの花壇の前にあったベンチに腰掛ける。

飲み物を買いに行ってくれた尚人を見送ってから、ポケットに入れていたスマホを取り出す。

電源ボタンを押してみるけど、やっぱり画面は真っ黒のまま。

事故に遭った時に壊れてしまってもう使えないかもしれないとお医者さんから渡してもらったけど、なんとなく捨てる気にもなれず持ち歩いていた。