「好き」って言って

「な…っ、あんた何してんのこんなところで…」

「あ、いや、体操着取りに来て…。糸瀬は明日のために練習?」


ハッと我に返った様子の糸瀬が、持っていたバスケットボールを後ろ手に隠した。


「ち、違うけど?これは、ここに置いてあったから片付けてただけ。もう帰るし」


慌ててボールを全てカゴに片付けた糸瀬が、鞄を肩にかけ俺の横を通り過ぎて行ってしまった。

その頬はバレたことの恥ずかしさからなのか赤く染まっていて、一瞬しか見えなかったけど涙目でもあった気がする。

糸瀬が去ってから呆然と立ち尽くしていたが、ふらふらっとその場に座り込む。


「…あー可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」


やべえ、語彙力どこいった。

心の底から可愛いしか出てこねぇ。

余裕ぶっていたくせに裏ではしっかり練習をしているところとか、バレて必死に照れ隠しをしていたところとか、俺を見つめる視線とか、ほんのりピンク色に染まった頬も小さな唇も、全てが可愛い。

だけど俺はきっと糸瀬に嫌われているだろうから。

なんとしてでも今は好感度を上げるために、普段の俺とは違った姿を見せなくては。

そのためにも、明日の球技大会では絶対に糸瀬に勝つ!