初めて話したあの日から、他の人よりも糸瀬のことをほんの少し知っている俺だからこそ、彼女に惚れてしまった。


「今度は球技大会で点数を多く取った方が勝ちだっけ?」

「ああ。負けた方が勝ったやつの言うことを一つ聞くんだ」

「はは、おまえもよくやるよな。一体勝ってどんなことを頼むつもりだよ。もしかして付き合ってほしいとか?」

「まさか」


俺が糸瀬に何かと勝負を持ちかけて絡むのは、ただ単に話したいからという純粋な動機からだ。

今回の勝負で褒美をつけたのも、自分のため。

糸瀬に勝ってあえて何もお願い事はしないことで、紳士な男を演じるつもりだ。

女は優しくて王子様みたいな男に弱いってうちの姉貴が言っていたから、普段の素直じゃない俺とは違ったギャップを見せることでイチコロってわけだ。


「え?勝ったのに、本当に私に何も頼むことないの?」

「ああ、たしかに今回も俺が勝ったけど、おまえも頑張ってたじゃないか。だから、この勝負は引き分けってことにしようぜ。仕方ないから、おまえの頼み事一つ聞いてやるよ」

「黒瀬…。あんたいいやつだったんだね。私はこれからも黒瀬と一緒にいられればそれ以上のお願いなんてないよ」

「ふ、おまえの気持ちなんてとっくにわかってたよ」


「…い。おーい、零!」