「好き」って言って

傘に入れてあげるやつがいるというのに、俺に傘があろうとなかろうとどうでもいいんだろ。


「…迎えが来てるから、大丈夫。気をつけて帰れよ」


糸瀬にふっと笑いかけると、鞄を傘代わりにしながら校門まで一目散に駆けていく。

そういえば糸瀬と初めて話したのも、こんな風に雨が降っていた日だったなと思い出して泣きそうになる。


「あ、やっと来た…って、なにもうそんなびしょびしょで!車が濡れるじゃないの」

「…わりぃ」


俯いたままの俺に、車の中でタオルを探していた姉貴が怪訝そうに眉をひそめた。


「…どうしたの?朝よりも悪化してんじゃないの」

「…何も、うまくいかねぇ。素直になるってなんでこんなに難しいんだよ」


黙ったままの姉貴は車から降りてくると、傘を片手にもう片方の手でわしゃわしゃと俺の頭を撫でてきた。


「…!?何すんだよ!」

「あたしに似てあんたは傲慢でひねくれた性格してるもんね。大丈夫大丈夫。私にとっての今のマネージャーみたいに、ちゃんとあんたのことを受け止めてくれる人とも出会えるから」


ぐいっと頭を抱き寄せてきた姉貴は、そのまま子どもをあやすようにポンポンと優しく叩いてきた。