「好き」って言って

「人を、待ってた…」


糸瀬の手には傘が握られていて、傘がなくて困っているわけではないのだとわかる。

…もしかして、俺のことを待ってくれていた…とか?


「もしかしてさ…」

「綾乃!」


俺の言葉に被せるようにして、後ろからやってきた高坂が糸瀬の名前を呼んだ。

…そういうことか、と理解する。

俺は危うく勘違いするところだった。


「…あ、ハルくん」


糸瀬が高坂を親しく呼んでいることに、ずきっと胸が苦しむ一方で腹が立ってくる。


「…じゃあな」

「…え、あ、黒瀬!傘は?どうせないんでしょう?」


そんなこと聞いてどうするんだよ。

糸瀬は俺のことを待っていたわけじゃないだろ。