「好き」って言って

フェンスを握りしめながら、今にも雨が降りそうな灰色の雲に向かって胸のモヤモヤを吐き出すけど、全然意味がない。


「糸瀬さんが幼なじみっていう男を家まで迎えに行って、一緒に登校してたんだっけ?たしかに朝から美男美女が一緒に登校してるって女子たちが騒いでたな」

「糸瀬の隣を歩けるほどの美男なんかこの世にいねぇ!」


焼きそばパンにかぶりついている光輝の胸ぐらを乱暴に掴む。


「ひょ、おひふへほ(ちょ、おちつけよ)…!」


驚きながらなんとか俺をなだめてくる光輝に、仕方なく力を緩める。


「そんなおまえのために、相手が誰なのかちゃんと調べてやったぞ」

「…で、誰だったんだよ。まさか糸瀬の彼氏とか言わないよな?」


糸瀬には彼氏がいないって話だったけど、この休日でいきなり幼なじみと付き合うことになったのか?

そもそも糸瀬に仲のいい幼なじみの男がいたことすら知らない。


「いや、付き合ってはないぽいよ。名前は、高坂陽哉(こうさかはるや)。俺らの一個上の先輩で、今日転校してきたみたい。人懐っこくて明るい性格で、もうクラスの人気者だって。四年間イギリスに住んでいたみたいなんだけど、つい最近こっちに帰ってきたらしい。糸瀬さんとは小学校が同じだったみたいで、それなりに仲も良さそうだったな」


ぎりっと拳を握りしめる俺に、光輝が怯えたように飛び上がっていた。