「好き」って言って

「もう諦めなさいよ。黒瀬くんにあんたみたいなのが近づくのが一番許せないの」


クラスメイトにパスを渡したところで、ぼそりと先輩が小さな声で耳打ちをしてきた。

それはさっき私に話しかけてきた先輩だった。


「…卑怯な手を使って勝って、嬉しいんですか?」

「あんたにはわからないでしょうね。いい子で純粋な子ならまだしも、あんたみたいにひねくれてるようなやつじゃ黒瀬くんには似合わないって身をもって知ればいいんだよ」


ずきりと胸が痛んだ。

黒瀬と釣り合わないことくらい、私が一番よくわかっている。

好きな人に好きと言えない私じゃ、いつまで経っても黒瀬に好きと言ってもらえるわけがないことも。


「…綾乃?」


夏芽の戸惑った声が聞こえてきたが、私の足は地面に縫い付けられたかのようにその場から動かなかった。

その間に先輩にスリーポイントシュートを決められてしまう。


残りあと一分となった。

先輩のチームとの差は二点差。

これ以上決められるわけにはいかない。