「好き」って言って

男子の決勝が始まるにはまだ時間があるから、私の試合を観に来たのだ。


「頑張れ」

「…え？」


いつもだったら私の不安を煽るようなことばかり言ってくるくせに、真面目な顔で頑張れと言ってきた黒瀬はちらりと先輩たちに視線を向けていた。

振り向くと、先輩たちは黒瀬を見てなぜか怯えたようにびくりと肩を震わせている。

再び黒瀬に視線を戻すが、黒瀬はいたって普通の顔で私を見返してきた。


「おまえのライバルは俺だけだろ。目の前のやつらなんて気にしてんじゃねぇよ」

「…なにを偉そうに。別に、あんたに限らず誰一人私に敵う人なんていないんだから」


黒瀬のおかげでいつの間にか不安なんてなくなっていた。

そうだ、今はとにかく勝つことだけを考えよう。


ピーッ。

試合開始のホイッスルが鳴り響き、ジャンプボールで渡ってきたボールをドリブルして早速一点相手ゴールにシュートを決める。


「ナイス綾乃！その調子」


夏芽に頷き返しながら、ボールをチームメイトにパスをする。