お兄ちゃんの家に住むようになってから一週間が経った。最初はお兄ちゃんの家に住むことに戸惑いがあったけれど、思ってた以上に生活は順調で、少し拍子抜けしている。
今日は休日、お兄ちゃんが一緒に買い物に行こうと言うので二人で街にやってきた。二人で歩いていると、あちこちから女性の目線がお兄ちゃんに飛んでくる。お兄ちゃん、私服姿もかっこいいから目立つんだよね。
昔からそうだった。どこにいても何をしても、お兄ちゃんは人の目をひく。当時大学生だったお兄ちゃんと一緒に買い物に行った時、一瞬だけお兄ちゃんと別行動していたら、お兄ちゃんの同級生だと言う人から突然話しかけられて、お兄ちゃんとはどう言う関係だって詰め寄られたことがあった。
私が妹だとわかったら手のひらを返したように優しくなって、お兄ちゃんのことを根掘り葉掘り聞かれたりしたっけ。もちろん、妹としてお兄ちゃんの個人情報を勝手に渡すようなことはしなかった。そのせいで、一時期嫌がらせを受けることもあったなぁ。
お兄ちゃんとたまたま街でばったりあった時も、お兄ちゃんはカッコよくてたくさんの人に注目されていて、でも本人はそんなこと全く気にしない様子で私に笑顔で話しかけてきたんだった。
『この子、誰?』
『え、ああ、俺の妹』
『ああ、妹。なんだ、そうだよね、こんな地味で子どもみたいな子、響のタイプじゃないもんね』
ふと、その時の光景が目の前に蘇った。お兄ちゃんの隣には見知らぬ女の人がいて、私を見てすごく嫌そうな、邪魔だと言わんばかりの顔をしていた。その時、お兄ちゃんはどんな顔してたっけ。ああ、そうだ、気まずそうに苦笑しながらこう言ったんだっけ。
『そう、だな。大切な妹で、ただそれだけだよ』
「楓?」
名前を呼ばれてハッとする。目の前には、心配そうなお兄ちゃんの顔があった。
「ごめん、なんかぼうっとしちゃってた。人が多くてちょっと疲れちゃったのかも」
苦笑いをしてそう言うと、お兄ちゃんは急に私の手を優しく掴んだ。え?どうして?
「人が多いと、はぐれるかもしれない。はぐれたら困るだろ?」
「えっ、まあ、それはそうかもだけど……」
戸惑っていると、お兄ちゃんはフッと微笑んで歩き出した。兄妹だった頃は、二人でいる時に誰かに見られるとなぜか距離を取られることが多かったのに、今はどうしてこんなに距離が近いんだろう。見られて困る人とかいないのかな。そう思った瞬間、また胸の奥がチクリと痛んで、黒いモヤモヤしたものが心の中を覆っていく。
だめだ、考えないようにしなきゃ。胸の奥のどうしようもない気持ちを振り払うかのように私は首を振って、お兄ちゃんと一緒に歩き出した。
今日は休日、お兄ちゃんが一緒に買い物に行こうと言うので二人で街にやってきた。二人で歩いていると、あちこちから女性の目線がお兄ちゃんに飛んでくる。お兄ちゃん、私服姿もかっこいいから目立つんだよね。
昔からそうだった。どこにいても何をしても、お兄ちゃんは人の目をひく。当時大学生だったお兄ちゃんと一緒に買い物に行った時、一瞬だけお兄ちゃんと別行動していたら、お兄ちゃんの同級生だと言う人から突然話しかけられて、お兄ちゃんとはどう言う関係だって詰め寄られたことがあった。
私が妹だとわかったら手のひらを返したように優しくなって、お兄ちゃんのことを根掘り葉掘り聞かれたりしたっけ。もちろん、妹としてお兄ちゃんの個人情報を勝手に渡すようなことはしなかった。そのせいで、一時期嫌がらせを受けることもあったなぁ。
お兄ちゃんとたまたま街でばったりあった時も、お兄ちゃんはカッコよくてたくさんの人に注目されていて、でも本人はそんなこと全く気にしない様子で私に笑顔で話しかけてきたんだった。
『この子、誰?』
『え、ああ、俺の妹』
『ああ、妹。なんだ、そうだよね、こんな地味で子どもみたいな子、響のタイプじゃないもんね』
ふと、その時の光景が目の前に蘇った。お兄ちゃんの隣には見知らぬ女の人がいて、私を見てすごく嫌そうな、邪魔だと言わんばかりの顔をしていた。その時、お兄ちゃんはどんな顔してたっけ。ああ、そうだ、気まずそうに苦笑しながらこう言ったんだっけ。
『そう、だな。大切な妹で、ただそれだけだよ』
「楓?」
名前を呼ばれてハッとする。目の前には、心配そうなお兄ちゃんの顔があった。
「ごめん、なんかぼうっとしちゃってた。人が多くてちょっと疲れちゃったのかも」
苦笑いをしてそう言うと、お兄ちゃんは急に私の手を優しく掴んだ。え?どうして?
「人が多いと、はぐれるかもしれない。はぐれたら困るだろ?」
「えっ、まあ、それはそうかもだけど……」
戸惑っていると、お兄ちゃんはフッと微笑んで歩き出した。兄妹だった頃は、二人でいる時に誰かに見られるとなぜか距離を取られることが多かったのに、今はどうしてこんなに距離が近いんだろう。見られて困る人とかいないのかな。そう思った瞬間、また胸の奥がチクリと痛んで、黒いモヤモヤしたものが心の中を覆っていく。
だめだ、考えないようにしなきゃ。胸の奥のどうしようもない気持ちを振り払うかのように私は首を振って、お兄ちゃんと一緒に歩き出した。



