私の言葉を聞いて、お兄ちゃんはどんな顔をしているんだろう。涙で何も見えないし、何も見たくない。

「……俺は楓といっときでも兄妹になれてよかったと思ってるよ。俺は、楓と出会えて嬉しかった」

 お兄ちゃんの声が部屋に鳴り響く。

「俺は確かにあの時、楓のことをただの妹だって紹介した。でも、それは……俺に好意を持っている同級生たちが楓に嫌がらせをしないようにするためだった。楓、高校生の時に俺の同級生に俺との仲を疑われてしつこく色々聞かれたことがあっただろ。また同じようなことがあったら楓に迷惑がかかると思ったんだ。それに、大学になってから周りにいる同級生は粘着質なやつが多くて……それこそ楓が嫌な思いをするかもしれないから、それを阻止するために言ったんだ」

 お兄ちゃんの言葉の一つ一つが、私の耳の中に入り込んでくる。お兄ちゃんは、私のためにそう言ってくれたってこと?

「それに、俺だって楓のことをちゃんと妹として見なきゃいけないってずっと思ってたんだ。楓はいい子だし、妹として大切にしなきゃって思ってたんだ。でも、一緒にいればいるほどこの気持ちが妹として思うからなのかどうかわからなくなっていく。戸籍上は兄妹でも、実際は血が繋がっていないだろ。でも、楓にとって俺はお兄ちゃんなんだから、ちゃんとお兄ちゃんでいようって思ってた。だから彼女だって作ったし、楓のことをただの妹だって思い込もうとした」

 驚いて顔を上げると、お兄ちゃんの苦しそうな顔が視界に入ってくる。驚きすぎて、涙もいつの間にか止まってしまっていた。

「父さんたちが別れたとき、楓とはこれでもう兄妹じゃなくなるんだって寂しさと同時に、もうお兄ちゃんじゃなくていいんだって思って少し嬉しかったんだ。でも、離れ離れになってもう二度と会えないのかもしれないと半ば諦めてたんだ。楓はどこか遠くで幸せに生きてくれたらそれでいい、そう思ってた。でもこの間、楓が俺の部屋の前にいて心底驚いたよ。そして、運命だって思った」

 そう言って、お兄ちゃんは優しく微笑みながら私の頬を片手でそっと撫でる。

「俺はもう、楓のお兄ちゃんでいるつもりはないよ。俺にとって、楓はただの妹なんかじゃない。大切で大好きなたった一人の女性だ」