セシリーナとアベルは、互いの手を取り合ったまま深淵の穴を降りていた。穴の側面を流れ落ちるマグマの赤々とした光。それだけが頼りだ。落ちる先は真っ暗闇。どこまで続いているのかも定かではない。
それでも不思議と怖くはなかった。アベルの男性らしい節ばった大きな手が、セシリーナの手を包むように握ってくれていたから。彼の存在を隣に感じられる。だから何が起きても大丈夫、自分はひとりではないと思えた。
(あ……!)
落ちていく先に目を凝らしていたセシリーナは、やがて小さな光が見え始めて目を見開いた。いよいよ出口が近づいてきたのかもしれない。隣のアベルを見やると、彼が力強く頷いてくれた。お互いに握り合う手に力を込める。地面に近づくほどに大きくなっていく光――。
そうして完全に地に足が付いたときには、広大な旧都市がセシリーナとアベルを出迎えた。石造りの街並みが眼下の視界の先の先まで続いている。太陽も何もない地下都市であるはずなのに、辺りは薄ぼんやりと明るい。周囲を舞う不思議な光の粒子の影響であるらしかった。自分たちは切り立った崖の上に降りたらしい。マグマは崖下まで流れ落ちていた。
アベルが目を瞠る。
「なんなんだ、ここは……」
「ここがイフリートが言っていた『かの地』なのかな」
「そうなんだろうな。ともかく下の街まで行ってみるか」
「うん」
「何が出てくるかわからねぇ。俺から離れるなよ」
差し出されたアベルの手を掴み、セシリーナとアベルは崖を下っていく。そうして住宅街の外れと思われる場所までやって来ると、その異様さを肌で感じるようになった。人影も物音も何一つないのだ。都市全体が耳が痛いほどの静寂に包まれていた。まるで死都のようだ。
アベルが同じ感想を抱く。
「……まるで生気の感じられない街だな」
「うん……。とても寂しい感じがする」
これだけの大都市だ。繁栄していた時代もあったのかもしれない。それでも今は自分たち以外には誰も存在していないように思えた。そのギャップが不気味なほどだった。
(歴史に忘れられてしまった場所。ここはそういった場所なのかもしれない)
滅びたまま時が止まってしまったかのような。
アベルが先を促す。
「ともかく先に進んでみようぜ。どこかに竜王と聖女がいるんだろうからな」
「はい。フィオナ、無事だと良いんだけれど」
「おまえの知り合いだったか。前に会った時は竜王に抵抗していたな。おまえと一緒で気が強そうだな」
「どういう意味!」
言い返すと、アベルが喉の奥でくっくっと笑う。どうにも彼にはからかわれてばかりだ。彼と言い合ったおかげで少しだけ緊張が和らいだ。リラックスしながら二人は歩みを進める。
街の中央広場に出たところで、アベルが足を止めて周囲を見回した。
「このまま闇雲に歩いても仕方ないかもしれないな。何か目ぼしい建物にでも入ってみるか」
「そうですね。じゃあ、手始めにあの大聖堂を調べてみませんか?」
街の中心部にそびえ立つ大聖堂。今も昔も変わらず人びとの集まる場だったのだろう。ここならば何か情報があるかもしれない。
アベルを先頭に、二人は堂内へと続くゆるやかな外階段を登る。古びた木製の扉を開けると、まず目に入ったのは高い天井とステンドグラスの薔薇窓だった。その薔薇窓を背に、女神像が祭壇に鎮座している。ステンドグラスからの光を受けて堂内を舞う埃がチラチラと輝いていた。
セシリーナとアベルが足を踏み入れたと同時、女神像の足元にいた二人の人影が顔を上げる。一人は闇色の羽をその背に生やしていた。また一人は透けるような白銀の髪をその背に流している。見間違いようもない。竜王とフィオナだ。
セシリーナは思わず名を呼んでいた。
「フィオナ!?」
「あ、あ! セシリーナ先輩!? それから聖騎士様も!」
「フィオナ! 無事でよかった……!」
セシリーナとフィオナは、どちらともなくお互いに向かって駆けだした。
それでも不思議と怖くはなかった。アベルの男性らしい節ばった大きな手が、セシリーナの手を包むように握ってくれていたから。彼の存在を隣に感じられる。だから何が起きても大丈夫、自分はひとりではないと思えた。
(あ……!)
落ちていく先に目を凝らしていたセシリーナは、やがて小さな光が見え始めて目を見開いた。いよいよ出口が近づいてきたのかもしれない。隣のアベルを見やると、彼が力強く頷いてくれた。お互いに握り合う手に力を込める。地面に近づくほどに大きくなっていく光――。
そうして完全に地に足が付いたときには、広大な旧都市がセシリーナとアベルを出迎えた。石造りの街並みが眼下の視界の先の先まで続いている。太陽も何もない地下都市であるはずなのに、辺りは薄ぼんやりと明るい。周囲を舞う不思議な光の粒子の影響であるらしかった。自分たちは切り立った崖の上に降りたらしい。マグマは崖下まで流れ落ちていた。
アベルが目を瞠る。
「なんなんだ、ここは……」
「ここがイフリートが言っていた『かの地』なのかな」
「そうなんだろうな。ともかく下の街まで行ってみるか」
「うん」
「何が出てくるかわからねぇ。俺から離れるなよ」
差し出されたアベルの手を掴み、セシリーナとアベルは崖を下っていく。そうして住宅街の外れと思われる場所までやって来ると、その異様さを肌で感じるようになった。人影も物音も何一つないのだ。都市全体が耳が痛いほどの静寂に包まれていた。まるで死都のようだ。
アベルが同じ感想を抱く。
「……まるで生気の感じられない街だな」
「うん……。とても寂しい感じがする」
これだけの大都市だ。繁栄していた時代もあったのかもしれない。それでも今は自分たち以外には誰も存在していないように思えた。そのギャップが不気味なほどだった。
(歴史に忘れられてしまった場所。ここはそういった場所なのかもしれない)
滅びたまま時が止まってしまったかのような。
アベルが先を促す。
「ともかく先に進んでみようぜ。どこかに竜王と聖女がいるんだろうからな」
「はい。フィオナ、無事だと良いんだけれど」
「おまえの知り合いだったか。前に会った時は竜王に抵抗していたな。おまえと一緒で気が強そうだな」
「どういう意味!」
言い返すと、アベルが喉の奥でくっくっと笑う。どうにも彼にはからかわれてばかりだ。彼と言い合ったおかげで少しだけ緊張が和らいだ。リラックスしながら二人は歩みを進める。
街の中央広場に出たところで、アベルが足を止めて周囲を見回した。
「このまま闇雲に歩いても仕方ないかもしれないな。何か目ぼしい建物にでも入ってみるか」
「そうですね。じゃあ、手始めにあの大聖堂を調べてみませんか?」
街の中心部にそびえ立つ大聖堂。今も昔も変わらず人びとの集まる場だったのだろう。ここならば何か情報があるかもしれない。
アベルを先頭に、二人は堂内へと続くゆるやかな外階段を登る。古びた木製の扉を開けると、まず目に入ったのは高い天井とステンドグラスの薔薇窓だった。その薔薇窓を背に、女神像が祭壇に鎮座している。ステンドグラスからの光を受けて堂内を舞う埃がチラチラと輝いていた。
セシリーナとアベルが足を踏み入れたと同時、女神像の足元にいた二人の人影が顔を上げる。一人は闇色の羽をその背に生やしていた。また一人は透けるような白銀の髪をその背に流している。見間違いようもない。竜王とフィオナだ。
セシリーナは思わず名を呼んでいた。
「フィオナ!?」
「あ、あ! セシリーナ先輩!? それから聖騎士様も!」
「フィオナ! 無事でよかった……!」
セシリーナとフィオナは、どちらともなくお互いに向かって駆けだした。

