あなたの家族になりたい

 そのあとは食器やタオル、スポンジを買って、フードコートで休憩。俺はコーヒー、彼女は小さいサイズのコーヒー。小さな口でちまちま飲んでいる。


「この後だけど、ドラックストアで歯ブラシとか買って終わり。他に何かある?」

「ないです」

「じゃあ、飲んだら行く」


 彼女は小さく頷いて残りのコーヒーをせっせと飲んでいる。別にそんな頑張らんでもいいのに。言わないけど。

 俺も残りを飲み干して立ち上がる。


「あ、捨てます」

「なんで?」

「え?」

「大人なんだから、自分のゴミくらい自分で捨てるだろ」


 言い方はキツかったと思うけど、そんなに変なことも言ってない気がする。

 自分のことは自分で。由紀家の基本ルールだ。

 須藤家の「最優先は『妻』」に近いかもしれない。

 彼女はまた頷いて、自分のコーヒーカップを分別して捨てた。


 並んで歩いてフードコートと反対側にあるドラッグストアに向かう。ふと振り向いたら、彼女がえらく遠くにいた。寄り道でもしてたんかな。

 でも、少し待って、また並んでも気づくと離れている。でも、少し待ってまた並んでも気づくと離れている。脚幅がけっこう違ったらしい。

 花音は身長が同じくらいだし、お袋は少し背が低いけど歩くのが速いから気づかなかった。

 違うな。たぶんお袋が速いのは親父が待たないからだな?

 まあ、俺も別にこいつを待つつもりはねえけど。

 すたすた歩いて目的のドラッグストアに着いた。辺りを見回して歯ブラシのコーナーを探しているうちに、彼女が追いつく。肩で息を切らしていて、なんつーか、歩くの遅えんだな。


「どれ?」


 歯ブラシを選ばせたら、悩まずに一番安いのを選ぶから、それは止めた。


「あんた、安物買いの銭失いって知ってる?」

「……すみません」

「消耗品を無駄遣いすんな。こんなしょぼいの使ったらひと月保たねえだろうが。だいたいサイズがあってない」

「そう、なんですか?」

「あんた俺より年上だろうが。歯磨きくらいちゃんとしろ」


 ぽかんとしてしまったから、結局俺が選ぶ。ヘッドが小さくて、毛先がしっかりしたやつ。しょぼいのを半月で交換するより、ちゃんとしたやつをひと月使うほうが結果的に安いし、サイズが合ってなくて磨けてないんじゃ、結局歯医者だなんだで金がかかる。

 そういう意味で無駄遣いされたくねえんだけど、こいつ分かってんのかな。


「歯磨き粉は、うちにあるやつでいいな?」

「は、はい。いいです」

「シャンプーとかも家にあるやつでいいだろ。合わなかったら、そのときにお袋にでも言え」


 あと何がいるんだ? こいつに聞いても何も言わねえからな。

 まあ、あとは必要になったら買えばいいか。

 歯ブラシを買って車に戻る途中、百均があったから、うがい用のコップだけ買って、今度こそ車に戻った。


「買った物は全部あんたの部屋に運んでおくから、開封は引っ越してきたときに自分でやって」

「はい、ありがとうございます」


 また駅まで彼女を送る。下ろしてすぐに走り出したけど、ロータリーの入り口で信号に引っかかった。

 ルームミラーを覗いたら、彼女はまだ降りたところで車を見ていた。



 家に帰って荷物を運ぶ。運び終えて車の鍵を玄関に戻したら、お袋が居間から顔を出した。


「布団はすぐ使えるように、明日の朝干してね。タオルも明日洗っておいて」

「えー、面倒くせえ。本人にやらせろよ」

「は?」

「はい、今すぐ開封します」


 顔は笑ってるのに、声がめちゃくちゃ低くてどうにも逆らえない。

 また二階に上がって、運んだ布団やらなんやらを開封していく。ペンギンも干したほうがいいのか?

 全部開けて、布団とペンギンはベッドに積んでおく。タオルは洗濯機に入れといて、食器も何か言われそうだから台所に運んで食洗機に突っ込んで回しておく。歯ブラシはさすがに使うときでいいか。洗面所のストックの棚にコップと一緒に入れておいた。


「っし、これでいいだろ」


 あー疲れた。

 なんつうか、イライラして疲れた。もうちょいちゃきちゃき動いてほしい。おどおどされるとイラつく。