あなたの家族になりたい

 カウンターの方を見に行くと、職員と何か話している。……なんか、近くねえか? 職員の男が、やけに体を乗り出していた。澪は少しずつ後ずさっている。
 立ち上がって近づくと、澪の困った声と職員の声が聞こえた。

「じゃあ、次の休みっていつ?」

「いえ、あの、そういうのはちょっと」

「由紀さんはちゃんと休みもないんだ?」

「そ、そうではなく……」

「いいじゃん、ちょっとお茶だけ、ね」

 ……今どきこんなわかりやすいナンパするやついるかよ。しかも由紀の女だってわかってて。

 澪とカウンターの間に体をねじ込む。

「妻に何か?」

「えっ、あ……っ?」

「わ、瑞希さん、すみません、お待たせしてしまって」

「こういうときは俺を呼べよ、お前は」

 小言のつもりで言ったのに、澪はなんか嬉しそうだ。まあそれは後回し。
 目の前で慌てている男の向こうに目をやる。

「おたくの職員、仕事中にナンパしてんだけど」

「も、申し訳ありませんっ!」

 声を張ると、奥からおっさんが出てきて、そいつを引っ張って前に出た。

「こいつ、仕事に来てるんであって、ナンパされに来たんじゃないんだわ。手続きどうなってんの?」

「ただいま確認いたします!」

 奥からもう一人おばさんが出てきて、三人であれこれ確認している。すぐに澪が出した書類の控えが寄越された。

「こちら、リースの申請書の控えです」

 言われても、俺にはわからんから澪に回す。

「これで問題ない?」

「大丈夫です」

 澪が控えをファイルケースに入れるのを見てから、カウンターの方に向き直った。

「こいつ、美園の娘で由紀の嫁だから、次こんなことあったら、両家で申し立てさせてもらう」

「は、はいっ」

「つーか、そうじゃなくても仕事中にそういうことするの、どうなんだ? 誰も止めに入らねえし」

 おっさん、おばさん、男は気まずそうに俯いている。

 つーか、これ、よくあったんだろうな。だからお袋は俺をつけたんだろう。
 だんまり決め込んでるおっさん見てても仕方ねえから、踵を返す。

「帰るぞ」