あなたの家族になりたい

「瑞希さん、おかえりなさい……!」

「遅くにごめんね」


 須藤さんが瑞希さんを玄関に座らせる。

 隣に座ると、瑞希さんは私を見て、いつもよりずっと小さい声で「ただいま」という。


「おかえりなさい。あの……瑞希さん、大丈夫ですか?」

「ちょっと飲みすぎただけだよ。ほとんど食べずに、飲んでばかりだったから」


 呆れた顔の須藤さんに、瑞希さんは渋い顔をしている。


「お水をお持ちします」

「あ、待って」


 立ち上がると、須藤さんが笑いながら私を呼び止めた。


「そいつね、美園さんのごはんが美味しすぎて、居酒屋の食べ物が全然美味しくないからって、食べなかったんだよね。胃が空っぽなのに飲んだから、変に酔っちゃったんだ」

「えっ……、そ、そうなんですか?」

「……うん」


 瑞希さんは唇を尖らせて頷いた。

 ……そっか。私のごはん、そんなに好きでいてくれてるんだ。


「あのさ、そいつ白馬の王子様じゃないから待ってても迎えに来ないよ」

「え……それって……」


 何を考えているのか、どうしてそんなことを言ったのかわからない。

 ……本当に? 本当に、私はわからないだろうか。


「何言ってんだ、お前」

「絶対に合意じゃないと寝ないしね」

「ほんと何言ってんだ。余計なこと言うな馬鹿」

「今の美園さんには言った方がいいと思うけど」


 ……たぶんだけど、須藤さんは私の背中を押してくれているみたい。

 瑞希さんは不貞腐れた顔で手を払う。


「……意味わからん。帰れ帰れ。……サンキュ、送ってくれて」

「いいよ、迷惑料もらったし。じゃあ、また。美園さんも」

「あ、はい……。あの、ありがとうございました」


 須藤さんを見送って鍵を閉める。


「お水、お持ちしますね」

「ん」


 瑞希さんは水を飲んだら落ち着いたみたい。


「立てますか?」

「うん」

 フラつきながら立ち上がる瑞希さんに手を差し出すけど、断られる。

 ……寂しいけど、それでも私は。


「だいじょぶ」

「全然、大丈夫に見えません」

「じゃあ、手……引っ張って。俺がふらついたら離していいから」

「……離しませんよ」


 やっと触れられたこの人の手を、私は離したくない。