あなたの家族になりたい

 澪は小さく頷くと、足音も立てずに下がった。

 顔を藤乃の方に戻すと、なぜか苦笑していた。


「瑞希、亭主関白なおっさんみたいだよ」

「は?」

「お兄ちゃん、お父さんよりも偉そうだった……」

「そっ……まじか……。気をつけてるんだけど」

「どこが?」


 妹は兄に容赦がない。


「膝掛けのお礼くらい言いなよ! お汁粉は『お願いします』って言って! もう、恥ずかしいよ」

「……そんなに……」


 藤乃は苦笑しながら雑煮を食べている。


「あ、これ、由紀さんの味だ」

「お袋が作ったんじゃん?」

「……澪さんだよ」

「えっ」


 花音がまた俺を睨んでいる。

 その顔つきがお袋そっくりだ。


「さっき台所で聞いたの。お雑煮、お母さんに教わって澪さんが作ったって言ってた」

「マジか……知らなかった……普通に食べてた……」

「お汁粉も、瑞希が甘いの好きだから、わざわざ澪さんが瑞希のために作ったんでしょ。お礼言った?」

「言った。……あれ、言ったと思うけど」


 思い出せない……言ったと思うんだけどな。

 普段の行いが悪いせいで、妹はまだ俺を睨んでいる。


「瑞希さん、お汁粉のお餅、二個で良かったですか?」


 戻ってきた澪が隣に腰を下ろす。


「うん。二個で……あ、ありがと。えっと……膝掛けと、汁粉と……」

「いえ……」

 
 澪は小さく頷いて、自分も汁粉をすすっている。

 花音に睨まれて、俺は言葉を探す。


「あのさ、さっきの膝掛け、あんた……澪の?」

「はい、そうです」

「俺の部屋から取ってきて良かったのに」

「……勝手に入るのはよくないかと」

「……別に、いいよ……」


 澪はじっと俺を見上げている。

 なんだ……どういう視線だ……?


「な、なに……?」

「いえ、入ってもいいんだなって……」

「いいよ。お前、部屋の中、あさったりしないだろ」


 あさられて困るものもないし。


「……はい。しません」


 なぜか澪はちょっと嬉しそうにして汁粉の餅を食べていた。

 藤乃を見ても、にやついていて意味がわからない。