あなたの家族になりたい

 師も走るくらい忙しい月。

 つーわけで、十二月中の俺は忙しい。

 ほんっとーに忙しい。

 なのにお袋から「澪ちゃんにクリスマスプレゼントは用意したの?」なんて言われた。


「……あいつが何ほしがるかなんて、知らねえけど……?」


 思わずぼやく。

 まあ、わかんないなら聞くのが早い。

 十二月も半ばの昼飯の後。

 台所で澪を捕まえた。

「おい、クリスマスにほしいもの、ある?」

「クリスマス……?」


 澪はぽかんとした顔で俺を見上げる。

 あんまり見ないでほしい。似合わないことを言っている自覚はある。


「お袋がさ、澪にクリスマスプレゼントやれって、うるせえんだよ。何かほしいもの、言って」

「……えっと……すみません……」


 困ったような顔でうつむいてしまった。

 なんでだよ。


「すみませんじゃなくて」

「ごめんなさい。もらったことないから、何を言えばいいかわからないです」


 もらったことがない?

 ……そういえば俺も、大人になってからは、もらったこともあげたこともねえな。

 澪は怯えた顔で俺を見上げてる。

「んー……、じゃあ、一般的にどういうものをやりとりするか確認する。またあとで聞くから、澪も自分で調べておけ」

「わ、わかりました……」


 小さい背中を見送ってから、藤乃にメッセージを送る。返事がきたのは夕方で、


『今年はハンドクリームのクリスマスコフレにした』


 と書いてあった。――クリスマスコフレ?

 調べてみると、そういう贈り物用のセットらしい。

 なるほど。俺もそれでいいかな。

 夜、夕飯のときに澪の手を見てみる。

 俺の半分くらいしかなさそうな小さな手。

 手の甲はカサつき、指先はあかぎれだらけで……なんというか、少し可哀想に思える。


「……ハンドクリームとか、持ってねえの?」

「えっ?」

「手、ガサガサだけど」


 澪は困った顔で、自分の手を見下ろす。

 向かいに座る母親が、呆れたように言った。


「瑞希、言葉が足りない。澪ちゃんの手が荒れてるのが心配なら、そう言いなさい」

「いや、心配とかじゃねえけど」

「心配しなさい!」

「うるせえなあ……」


 母親が怒り出したので、藤乃から聞いた話を説明する。


「で、澪にそういうのが必要か聞こうとしたんだよ……」

「言葉が足りなすぎるの!」

「わかったって。で、澪はそれでいい?」

「……はい、いいです……。あの、でも、私も瑞希さんになにか……」

「えー……なんでも、痛っ」

 なんでもいいと言いかけたところで、机の下から親父に思い切り脚を蹴られた。

 そんなこと言われても。


「あー、そしたら、クリスマスにケーキ買ってきて。クリスマスっぽいやつ」

「……わかりました」

 食後、藤乃に電話してハンドクリームのクリスマスコフレについて詳しく聞く。

 いくつか教えてくれたので、その中から適当に注文しておく。


『瑞希がクリスマスプレゼントとか、似合わないな』

「俺が一番そう思ってるよ。藤乃は無駄に似合うな……」

『結婚して最初のクリスマスだし。嫁いでもらって、苦労かけてるのわかるから、喜ばせたいんだよ』

「……そういうもんなのか?」

『そういうもんだよ』


 わからんな……。二言三言だけ話して、電話を切った。