「でも、杏奈以外の人には俺の事はまだクズって事を吹聴しといてくれ」


「りょーかい」


もしかして、私が聞いた事があった黒い噂はこうやって意図的に姫華さんが流していたのかな?


噂というものはその人の印象を会って喋った事もないのに一気に作り変えてしまう事ができるから。


「お二人はやっぱり仲がいいですね!」


いつもはガミガミ言い合っている二人だけど、多分それが二人の普通なんだよね。


「腐れ縁だからね〜。てか、今はそんな事よりも杏奈ちゃんと依桜の事!ねぇ記念に写真撮ってもいい?」


そう言って姫華さんはポケットからスマホを取り出した。


し、写真撮るの⁉︎は、恥ずかしいよ……。


「なんで写真撮るんだよ」


やっぱり依桜さん嫌なのかな……?


恥ずかしいとは思ったけど、依桜さんから否定されるとちょっと心が痛くなった。


「いいじゃん!写真撮ろうよ!記念記念!」


「俺ら二人の写真ならもうあるから」


「……!」


面倒くさそうにベッドから立ち上がると少し自慢げに言いながら兼保健室のドアに向かって依桜さんは歩き出した。


そういえばショッピングモールの屋上でツーショットを撮ったよね。


まさか依桜さんが覚えててくれていだとは思ってなかったから嬉しくてさっきの心の痛みはこの嬉しさで一瞬で修復されちゃった。


「そうなの⁉︎二人ともラブラブじゃん!」


ニコニコの姫華さんは楽しそうにしながら歩いて行こうとする依桜さんを止めた。


「せっかくなら私達みんなで撮らない?というか私が撮りたい!」


目をキラキラと輝かせながらスマホを握りしめた姫華さん。


依桜さんはすぐに逃げ出そうとしていたけど、姫華さんから逃れる事ができずに兼保健室に引き摺り込まれてしまった。


机の上にあったペン立てにスマホを立てかけて十秒後にシャッターが押されるようにセットする。


「じゃあ行くよー!」


そう言って姫華さんが押そうとした時、突然兼保健室のドアが開いた。


中に入ってきたのは安西先生。


ちょうど怪我人の手当てが終わって来てくれたみたいだった。


「はいはい、安西先生も一緒に入ってー」


入ってきた安西先生どういう状況なのかと首を傾げていたけど、すぐに一緒に映ってくれた。


「じゃあ行くよー!」


依桜さんと私、姫華さんと安西先生の並びで二列になって前には姫華さん達がしゃがんでいる。


元気よくそう言ってすぐに安西先生の隣に着いた姫華さん。


みんながスタンバイすると私はニコッと笑って左手でピースを作った。


あとどれくらいかな?とワクワクしていると急に右手が持ち上がる。


びっくりして右を向くと依桜さんが私の手を握ってくれていた。


い、依桜さんが私と手を繋いでる……⁉︎


びっくりしたけど嬉しものは嬉しくて、だから私も依桜さんの手を握り返した。


「六、五、四、三、二、一!」


–––パシャッ


静かだった空間に響いたシャッター音。


「やっぱ、杏奈はすぐに顔が赤くなるな」


姫華さんと安西先生が写真を確認している時、二人にバレないようにサッと手を離す。


「そ、そんな事……ないよっ!」


依桜さんから握ってくれたのは嬉しかったけど、私も握り返すとなるとやっぱり恥ずかしい気持ちもある。


だからまたすぐに顔が赤くなってしまったのだ。


「まぁそんな顔も好きだけど」


「なっ……!」


依桜さんはまたそういう事を言う……っ


恥ずかしさでいっぱいだったけど嬉しかった。


「ねぇ!杏奈ちゃん達も写真見てみて!結構いい感じに撮れたよ!」


姫華さんがスマホの画面を私達に見せてくれたので見てみるとみんないい笑顔で映っていた。


「いい感じですね!」


「だよね!お二人ともこれからも末長くお幸せに〜」


「ちょっとーからかわないでくださいー!」


あははと笑いながらもう一度写真を見る。


やっぱり、写真っていいな……。


チリンチリンッとまた鳴った風鈴を聞きながら私達は楽しくお喋りに花を咲かせた。


これからも楽しい日が続きますように–––。