「はぁーお腹すいた……」


四限目の終わった昼休み私は一人で食堂に来ていた。


食堂の一番端っこの席に座りながら唐揚げを口いっぱいに頬張る。


食堂に一人で来るのは初めは少し躊躇ったけど食い意地が張って今はそんなに気にしていない。


今日のご飯は唐揚げ定食。私はここの学食で生姜焼き定食とかビビンバとか食べたけど、唐揚げ定食が一番美味しいと思ってる。


いつものように私がご飯を食べていると今日はなんだか食堂が騒がしかった。


今日って何があったっけ?ここが賑わうなんて全部のご飯が20円引きの時くらいなのに……。


なんとなく気になって騒がしい方を見ると一人の男の人を女の子達が取り囲んでいるように見えた。


……もしかしてあの人、あの日私が兼保健室でメイクをした不知火さんじゃない?


一番端っこからだからはっきりとは見えなかったがきっとその人で間違いないだろう。


席から立ち上がって背伸びをしながら見たのだから。


そんなに珍しい事なのかな?


私は毎日ここの学食を食べに来ているけどここまで騒がしいのは初めてだった。


周りには女の子達が不知火さんを取り囲むようにして群がっている。


みんな目をハートにさせて。


やっぱりあの人はすごい人なんだな……。


再度そう認識し、自分的には満足したので席に着いてまた唐揚げを頬張った。


やっぱり美味しい!


唐揚げを一口で食べるのが私流で噛む間にもう一度不知火さんの方を見る。


右頬には痛々しくガーゼがついていてアザは見えなかった。


ちゃんとメイク落としたのかな?落としてないと肌荒れの原因になっちゃうんだけどな……。モデルさんならちゃんとしてるかな?


メイクは保湿からスキンケアまでができて初めて完成するもの。


例えば遠足は帰るまでが遠足ですって先生に言われるのと一緒。


一つでも怠れば肌環境が悪くなりメイクノリも悪くなる。


あんなにも綺麗な肌をしているんだから尚更、綺麗なままを保ってほしい。


って、私何考えてるんだろう。私にはもう関係ないんだから考えなくてもいいじゃん。


そう思い唐揚げを飲み込むと不知火さんがこちらを向いているのに気付いた。


周りの女子から頭ひとつ飛び抜けているからかはっきりと顔が見える。


もしかして、私の方を見てる……?


変な汗がじわっと滲み、すぐに視線を逸らそうとしたけど、その前に不知火さんの手が動いた。


右手の親指と小指だけを上げそのほかの指は折った手。


その手を耳元まで持っていき手を動かした。


……もしかして電話?


不知火さんの手の動きは一瞬でちゃんとは見えなかったけど多分電話だと思う。けど、電話って?


不思議に思い何かあるのかなとスマホを制服の左ポケットから取り出す。


「……誰、これ?」


スマホ画面を開いてすぐこぼれた言葉。


"不知火依桜"と表示された文字が十件ほど私のスマホに届いていて、それも全て連続で届いていた。


もしかしてこの漢字で"しらぬい"って読むのかな?


今までずっと不知火さんって呼んでたけど漢字を見るのは初めてだったので初めは誰かわからなかった。


でも、なんで不知火さんが私の電話番号を知ってるんだろう?もしかして安西先生に聞いたとか?


私はいつでも連絡できるように安西先生と連絡先を交換しているからもしかしたら安西先生から聞いたのかもしれない。


って、今はそんな事よりも早く掛け直さないとっ


授業中に通知音が鳴ってしまうと没収されてしまうのでマナーモードにしていたから全く電話に気付くことができなかった。


「早く掛け直さないとっ」


私は急いで不知火さんに電話を掛け直す。


「はい」


「深海です。すみません電話に出れなくて」


「いいよ、多分授業中だったんだろうし」


「は、はい……」


「まあ、それはいいとして今すぐ俺のアザ隠して欲しいんだけど、いい?」


今から……?


今はお昼休み。一度スマホを耳から離し時間を確認する。


12時40分。


五限目の授業は1時からだけど、頑張れば間に合うはず。


「大丈夫です!でも、メイク道具は兼保健室にしかないので保健室に来てもらってもいいですか?」


「わかった」


その言葉を言って切れた通話。


今すぐ兼保健室に行かなくちゃだよね。


そう思い私は目の前に残っている唐揚げを急いで口に詰め込んだ。


もっとちゃんと味わって食べたかったなぁ……。