紺碧のアステリズム




「《それにしてもアズマの国は素晴らしいですね。 皆が読み書き計算ができるなんて、向こうでは考えられません!》」




私との会話にいちいち感激するジェームズさん。彼は、私が異国に興味があるように、この国に興味があってはるばる海を越えてやってきたという。中でも特に、田園が広がる田舎の暮らしを見てみたかったそうだ。そこで伯父の休暇に合わせて共に来たらしい。



「ジェームズは学者でね。 ここにいる間、桜ちゃんにも彼の話し相手になってくれると助かるよ。 聞きたいことがたくさんあるらしいから。」

「兄さん…!」



それは願ったり叶ったりの申し出だが、母がすぐさま止めに入る。



「田舎の景色を見ていただくのは構いませんが、手紙にも書きました通り、田舎ではまだ異国に対する良くない感情が色濃く残っております。 嫁入り前の娘にもしものことがあれば私はっ…!」

「ジェームズはとても紳士的な方だ。 僕が保証しよう。」

「そういうことじゃないのよ兄さんっ…。」



先程までは楽しい雰囲気で会話することができていたのに、急に怪しくなった雲行きに困惑する。ジェームズの困った瞳と目があった時、かたりと扉が動く音がした。そろそろと開けられた扉のすき間から、青い瞳が光に反射してきらりと輝いて見えた。



「……コンニチハ。」



もじもじしながら扉の影から現れたのは、ここへ来る途中に助けた子どもだった。お風呂にでも入ったのだろうか。ふんわりとした金の髪はつやめき、汚れていた身体も綺麗になって、服も整えられていた。その仕上がりは神聖さを感じるほどだった。



「こんにちは。」



ほほ笑みかければ、子どもの柔らかそうでふっくらとした肌が赤く染まる。アダムはタタタッと走ってジェームズにぴったり抱きついた。



「《ジェームズ、僕、ちゃんと来たよ。》」

「《ああ、偉いねアダム。 さあ、お礼をしよう。》」




アダムがくるりと振り返る。



「《さっきは…ありがとうな! 早く遊びに行きたくて抜け出して、迷子になってたんだ。 同じくらいの子どもを見かけて話しかけたけど、みんな僕を見て嫌な顔したり、石も投げてきたりしたから、怖くて動けなくて…。 だから、嬉しかった! 僕たちの国の言葉で話しかけてくれて。 本当にありがとうな!》」



伯父が翻訳してくれて、驚く。こんな小さな子に、石を投げたなんて。



「お礼を言われるほどのことはしていません。 それより怖かったでしょう? この国の人達が…本当にごめんなさい。」

「桜ちゃんが謝る必要はないよ。 それにしても、やはり根深いようだね。 ここがそうなら、内地はもっとそうなのだろう…。 どうしたものか…。」



異国との架け橋になろうと奮闘する伯父の、悔しそうな、悲しそうな、なんともいえない顔。



「《なあ! まだ時間があるなら、遊ばないか? この国の遊びを教えてくれ!》」

「え? え? 時間?」



身振り手振りで、一緒に遊ぼうと伝えるアダム。その思いをジェームズや伯父が代わりに伝える。



「大人だけで話したいことまあるから、声をかけるまでいいわよ。 ただし、宿舎の敷地を出ないことが条件です。」

「《アダム、遊ぶならラキアスにも声をかけなさい。 レナードもついてくるから安全だろう。》」

「《わかった! 行こう! 僕はアダム! お姉ちゃんは確か……》」

「《桜よ。》」



遊ぶことを許された2人は笑顔で慌ただしく応接室をあとにする。その2人が完全に部屋から遠ざかるのを待って、慈郎は言った。



「百合子、実はな………」