建物の陰に、震える肩を抱いて小さくなり、息を潜めるようにして座る子ども。遠目から見ても上等だとわかる衣服は泥に汚れている。
じゃり、と砂を踏みしめる音に、子どもは大きくびくりと身体を跳ねさせた。
「《こ、こっちへ来るな…!!》」
バッと顔を上げた子どもの、こちらを威嚇するような鋭い眼光に息を飲む。
瞳が… 瞳が青い。
こんな時に不謹慎かもしれないが、海の青のような、空の青のような、見たこともない澄んだ青い瞳に私は目を奪われたのだった。
こんな…こんな宝石のような瞳が、本当にこの世に存在するなんて、信じられない。金糸のような、毛先がくるりとしたふんわりした髪も、この世のものとは思えない美しさだ。
男の子…だろうか。女の子にも見える、美しくも可愛らしい子どもだった。
「《な、なんなんだお前…! さっきからこっちを見て…あっちへ行け!! 近づくな!!》」
異国の言葉だろう。何かを叫びながら私と距離をとほうとする子どもから、手元の砂を投げつけられる。
「桜っ!?」
「大丈夫よお母様。」
このくらい大丈夫。警戒されるのは当たり前。
良く見れば男の子は、服が汚れているだけではなく、膝小僧には血が滲み、顔には擦り傷も出来ていた。
通じるか、わからないけど……
「《こんにちは。》」
屈んで目線を同じくして、語りかける。
「《私の名前は桜。 野々宮桜。 私、助けたい。 あなたを。》」
子どもはピタリと動きを止めた。大きな瞳がさらに丸く開かれて、こちらを見ている。
私は持っていた本を開いた。それは、伯父が異国の言葉を勉強した本だ。それを見ながら、一緒懸命気持ちを伝えてみる。
「《大丈夫。 私は、しない、あなたを、攻撃、しない。》」
カタコトだけれども、伝わったのだろうか。子どもの目に、みるみる涙が溜まっていく。
「う、うわぁぁん…!」
泣く時は、どの国の子どもも同じなのだろうか。泣き始めた子どもに駆け寄って、その背中を優しく撫でる。
「桜、あなた……」
「お母様、この子も一緒に伯父様のところへ連れていきましょう。」
きっとこの子が伝え聞いた、異国からのお客様だろう。

