紺碧のアステリズム




「緊張します…! ちゃんと喋れるでしょうか…!?」



本を胸に抱き、朝から心配だ不安だと呟く私に、母は溜め息を繰り返す。
母の生家に着いた翌朝、母と私は伯父に会いに、伯父が泊まっている宿舎を訪ねに向かっていた。



「あなたって子は…。 お祖母様達にあれだけ啖呵を切ったかと思えば、何をそんなことを…。」



いつどこでこんな娘に育ててしまったのか、とでも言いたげな目を向けられ、私は口を尖らせる。



「最後の機会だと思ったんです。 お母様、私知ってるんですよ? 私を嫁がせようとしていること。」

「それはあなたのことを思って……」 

「私のことを真に思ってくれているなら、彼との交際を認めてくれるはずです。」



母は黙る。当然だ。だから私はにっこり笑う。



「今回は仕方がないわ。 でも、異国の方とは必要以上に関わってはいけませんよ? 必ず人の目がある場所で…。 なるべく伯父様と一緒の時にしてくださいな。」

「努力致します。」

「またそんな返答を……。」

「お母様、海ですわ!」



微かに鼻をかすめた塩の匂いに、思わず母がさしてくれていた日傘から飛び出した。

私が暮らすのは、近くには小さな街があるものの、野山に囲まれ、田が広がる内地だ。一方で母が生まれ育った街は、平地が少ないかわりに海があった。傾斜のある山には段々畑や果樹が並び、港にはいくつもの船が停泊している。



「気持ちいい…!」



堤防から身を乗り出して潮風を浴びる私に、母がはしたないからやめるよう声をかけてくる。



「桜、久しぶりで嬉しい気持ちはわかるけれど、あなたももう淑女なのだから…。」

「ええ、わかっているわ。 私の淑女ぶりは学校でも……」



堤防から降りて身体についた土を払い、宿舎へ向かう道に戻ろうとした時、視界の端にきらりと光る何かを見つけて歩みを止めた。



「桜? どうしたの?」

「お母様、あれを……。」



海沿いに並ぶ倉庫。その陰に小さくうずくまる子ども。



「あれは……」

「見て参ります!」



建物の陰になっていてわかりづらかったが、近づいていけばすぐにわかった。

異国の子だ…!

先ほど視界に捉えたきらりと光る何かは、子どもの美しい金の髪だったのだ。