「帰宅早々みっともない! 女が男の仕事に口を出すもんじゃないよ!!」
「痛っ…! お祖母様、放してください!」
日々の農作業で鍛えられたのは身体は、もうすぐ八十を迎える人間とは思えない。その背筋はしゃんと伸び、家長を父が継いだ後も長らくこの家を支えている。
「お義母様、もうそのあたりで…!」
「嫁の分際で何を言う! 元を辿れば全部お前のせいだよ! 桜に変な知恵つけさせおって…!」
腕を振り払われて尻もちをついた母を支えに駆け寄る。
「お祖母様、暴力はいけません!」
「お黙り! 学をひけらかし、川下の人間と関わり、さらには異人共に媚まで売ろうってかい!? 野々宮家を辱めるんじゃないよ!」
頭に血がのぼっているのだろう。顔を真っ赤にして、般若のような目でギロリと私達を見下す祖母。そんな祖母が昔は怖くて堪らなかったが、たとえ女であれ、今は力も体格も私の方が勝っている。今は怖くもなんともない。それよりも、私だけではなく柊太のことまで貶めてきた祖母に腹が立って仕方がない。祖母のここでいう川下の人間とは、柊太の住む集落を指す差別的な言葉なのだ。
私は母を庇って前へ出る。
「私はお母様を助けるために行くのです。 他のどんな理由もありません。 いいでしょうこのくらい…跡取りにしろと、言っているわけではないのですから。」
父が目を見開く。
「お前……」
「行きましょう、お母様。」
「いえ駄目よ。 あなたは異邦人とだけは関わってはいけない…!」
「慈郎伯父様はお役人として立派にやり遂げています。 異国の方と関わることは、恥じることではありません。」
真に恥じるべきは、深く知らぬことに対して差別的な心を持ち、接することだ。
それに、どうせこのままこの家にいても、私にとっていいことはない。知っているのだ。柊太以外の人との縁談を、勝手に進めていること。それは私の知らぬ間に成立してしまうだろう。抵抗のためにも女学校へ入ったが、祖母のことだ。退学して嫁げと言われかねない。だとしたら今回は、嫁入り前の、最後の反抗だ。
母をはじめ、皆が心配する理由はわかる。異国と関わることで私が…ひいては家の品格が貶められるようなことが起きたらと、心配しているのだろう。しかし、その時はその時。責をとって、除籍されるくらいの覚悟はしてある。それで柊太と一緒になれるのであれば
、それくらいなんともない。私にとって問題なのは、この家で、勝手に人生を決められること。
私は父をじっと見つめる。
さぁ、お父様。私はあなたが、跡取りの話題に弱いことを知っています。私に対して何か思うことがあれば、どうかご英断を。
「…学校へは、療養へ行くと伝えておこう。」
「父上!!?」
まさかの許可に、宗介が声を上げる。
祖母も交えて彼らが言い争う中、私はおろおろする母を連れて、家を出た。

