紺碧のアステリズム




遂に本物に触れることができる。そう思うと、いつもは気が重たくなる父の書斎への道も、勇み足になってしまう。

先ほどから高まり続ける、この胸の高揚感が気持ちいい。

なぜ言葉が違うのか。どういった人が暮らしているのか。服装は?髪型は?食べ物は?文化は?絵画は?国のしくみは?
知りたいことはたくさんあるのだ。

異国好きになったきっかけは、母を通して、母の兄である慈郎伯父様から誕生日に異国の品を受け取った時だ。この国にはない仕掛け。何がどうなっているか、わからない仕掛け。デザイン。今ではこの国の人々にも知れ渡ってきたが、最初に手にした時の衝撃は今も忘れない。懐中時計と言われるそれは、動かなくなった今も大切に懐に入れてある。

それから母の家で伯父の本を見つけ…私の異国好きは拍車をかけて進んでしまったのだ。



「お父様、桜です! 少しお時間をいただけませんか?」



書斎を訪ねると、父と弟の宗介がいた。宗介がじろりと私を睨めつける。本当に幼い頃は知らないが、野々宮家の跡取りとしての教育が弟に行われ始めた頃から、この仲は最悪だ。



「騒々しいぞ、桜。 どうしたんだ。」

「私もお母様についてお祖母様の家へ行こうと思い……」

「駄目だ。」



父は間髪入れずにハッキリと言い放つ。それに調子づいた宗介がククッと笑った。



「姉さんって馬鹿なの?」

「お前がどうしても勉学に励みたいというから、女学校への進学を許可したのだ。 勉学に励め。」



父の前。散らばる書類の一番上に、宗介の成績通知書があるのを見た私は、鞄から温めていた成績通知書を取り出し、父の前に置いた。本当は柊太と会うための口実などに使おうと思っていたが、致し方ない。



「試験はとうに終わりまして、今回も首席を守りました。 向こうへ行っても学びは止めません。 勉学ならどこへ行ってもできますから。」



跡取り教育とは違って、という意味をこめて弟をちらりと見る。

宗介はこの家の跡取りだ。そのための教育を幼い頃から施されているのだが、学校の成績は私と違って中の下。それに父は頭を悩ませているらしい。



「…お前は異邦人に興味があるだけだろう?」

「なぜそこまで毛嫌いなさるのですか? 彼らも皆同じ人ではありませんか。」

「ならぬものはならぬ。」



父は堅物だ。古きを大事にすることも、家を大事に守ろうとすることも悪いとは思わないが、私の話にはいつも耳を貸そうとはしない。



「異国の知識を身につけることは、この野々宮を守ることにも繋がると、私は思います。 知識を身につけていれば、これから異国に騙されることもないでしょう。」



机上に散らばる書類の中から、目についた資料を引っ張り出す。それは、異国の文字を訳したと思われる書類であった。



「お前、何してる!!」



宗介が声を荒げる。



「私も本でかじった程度ですが…。 ここの翻訳は誤っているのではないですか?」

「なに?」



父に説明をしていると、背後でバンッと勢い良く扉が開いた。



「桜!!」



家長のお祖母様の登場だ。