「矢嶋さんもなかなかしつこいわね。」
「おい、聞こえてるぞ珠子。」
珠子はぷいっとそっぽを向く。親が同業者である二人は、仲は良くないが面識があるそう。逃げ場をなくして会話を余儀なくされた私達の間に、珠子が立ってくれた。
「どうして桜にこだわるの? 嫁の候補なんて、いくらでもいるじゃない?」
「だろうな。 でも、俺の家は所詮ぽっと出の新参者。 俺には名前がいるんだ。 わかるだろう?」
「だとしても、どうして桜なのよ。」
「そりゃあ、顔がいいからに決まってる。 身体つきはもう少し太い方が理想だが。」
悪びれもなく、なんて失礼なことを言うのだろう。
これにはさすがの珠子も怒ったようだった。
「あのねぇ! 私達にも選ぶ権利というものがあるわ。 桜に求婚しているのはあなただけじゃないんだから。 それに……」
「私は愛のない結婚はしないわ。」
キッと睨みつける私のことなどちっとも怖くなさそうに…むしろ滑稽な奴らだと矢嶋さんは笑った。
「現実は小説とは違うんだぞ? まあ、愛が欲しいならその辺は心配するな。 愛してやれるから。」
人の身体を舐め回すかのような、じっとりとした視線に身震いがした。

