そよそよと髪を撫でていく風。先週は確かに潮風を浴びて過ごしていたのに、戻ってきた日常があまりに日常で、夢でも見ていたかのように思う。
家のしがらみも、アズマのしきたりも、気導も、何もかも忘れていた一週間だった。そしてそれは一時の夢だと、思い知らされる今日この頃。
「気導が……」
「ん?」
「気導が私達女にも使えたら、何か変わったのな…。」
珠子はきょとんとする。
「桜は変なことを考えるわね。」
「そう?」
「そうよ。 そんなタラレバの話をするより、現実を見ましょう。 あなたには柊太君だっているんだから。 女が気導をなんて考える前に、柊太君が気導を扱えるようになることを考えた方が現実的だわ。 でもまあ、それも無理でしょうけれど。」
気導は男性であれば誰でも使うことができるわけではない。基本は遺伝するものであり、家宝の刀がなければならない。故に歴史ある…格式高い家の男性にしか扱えないというのが常識だ。
「ねぇ、気晴らしに街へ行きましょうよ。 お父様が観劇の券をくださったの! 柊太君の働いているところも見れるかもしれないわよ。」
私の耳が、喜びにぴくりと動く。
「ぜひお願いします!」

