刀以外でも使えると知っていれば、あんな事件は起こらなかったのではないか。…いや、遅かれ早かれ起こったかもしれない。跡継ぎとして大切に育てられ、その教育を受ける弟に嫉妬している限りは、何かしら起こっただろう。
「《桜。》」
おかしな発音で呼ばれて振り返ると、そこには走ってきたのだろうか。額に汗をかいたラキアスが立っていた。
「《急にどうした。 アダムが探してるぞ。》」
「《…疲れているので、今日はもう帰ろうと思って。》」
「《だとしても、声をかけろ。》」
聞き取れずに首を傾げると、溜め息を吐きながら、怒り気味に単語で伝えてくる。
そんなに怒っていわなくても…。
私まで溜め息をついてしまう。二人の溜め息が重なって、それが少しおかしくて。お互いに何をしているんだろうと笑みが溢れる。
「《桜は、気導が嫌いなのか?》」
「え?」
「《嫌いなのか?》」
「《嫌いじゃない…ですね。 むしろ、好きだと思います。》」
「《じゃあ何でそんな顔をするんだ。》」
「え? 変? 何が?」
変な…顔と言っているのだろうか?まったく、失礼な人である。
ラキアスはなかなか通じない言葉にイライラしてきて。私の肩を掴んで、向かいに立つ。
「《…っとに、面倒な奴だなお前は。 いいか? 誰にも言うなよ。》」
「え? な、何ですか…?」
ビシッと急にデコピンをくらう。
「痛っ…何するんですか!!」
「ほら、これで俺の言葉がわかるだろ?」
「はい? 言葉? えっ…ええっ!!?」
突然流暢なヤマト言葉で話し始めたラキアスに、開いた口がふさがらない。
「何で… 何をしたんですか?」
デコピンされた額を押さえる。
「魔導の応用だ。 今だけ通じるようにした。」
「そ、そんなことできるんですか?」
「まあな。」
でも秘密にするように念を押される。こういう使われ方が出来ることは、知られると面倒らしい。
それもそうだと納得して頷く。物に宿る神の力を引き出すだけの気導と、同じ気の力を使った力だというのに、可能性の幅が違い過ぎる。
「で、何だ。 聞いてやるから話してみろ。」
「何を…?」
「お前が暗い顔をしてる理由だ。 気導がどうかしたのか?」
「えぇ…? いいですよ。」
「よくないからそんな顔してるんだろ。 こっちまで辛気臭くなるから、聞いてやるって言ってるんだ。 聞かれたくないなら普通にアダムの相手をしてろ。 あと2日で帰るんだから。」
そっか…。あと少しでお別れなんだ…。
じっとこちらを見つめる青い瞳に吸い込まれそうな気持ちになる。海に惹かれるように、時にのまれるように。不思議と、口が開く。
「実は……」
私は思い返していた祖父と事故の話を、みんなには内緒にするように言って、話してしまった。

