「ソレ、イチ、ホシイ!」
イカの串焼きを売っていた男性が、突然現れた異国の子どもに目をギョッとさせる。
「な、なんだお前っ!?」
「こんにちは。 突然申し訳ありませんがおじさま、その美味しそうな串焼きを一つ、この子に売ってはいただけませんか?」
「へ、へぇ…そ、それは……。」
どうしようかと迷う素振りを見せる相手に、私は自分のお小遣いから定価に少し上乗せしたお金をアダム君に握らせた。
「《アダム君、お金、あげる。 交換。 わかる?》」
「《わかった。 これで足りるか?》」
「《大丈夫です。》」
ずいっとお金を差し出されると、男性は困惑しつつも代金を受け取り、串焼きを渡してくれた。
「ありがとうございます。」
「アリガト!」
嬉しそうなアダム君。私は去り際にちらりと後ろを振り返る。他の商人が今し方のやりとりを聞きに、男性の元へ集まってきていた。ひそひそと、話し声が聞こえる。
「なんで異人なんかに売っちまったんだい…!」
「いや、ほら、後ろの旦那、ありゃ山内家の長男坊じゃないか。 お役人の…。」
ああなるほど、と腑に落ちる。伯父が自分から離れないように言ったこと。母が伯父と一緒に行動するように言ったこと。伯父が異国の方をお招きできたこと。彼らが街を歩いていても、表立って何かをしてくるわけではないこと。それは全て、伯父の…この地に古くから根ざした家の長男で、役人として立派に勤め上げている伯父のおかげなのだと理解した。
きっとこの地の人は、表立って私達に逆らえないのだ。伯父のおかげだけではない。背後に迫る山。豊かな港。けれどここでは、肝心の稲がとれない。この問題を解決したのがお祖父様だ。この地の名主である山内家の長女…つまりは母を父に嫁がせ、優先的に米をこの地へ流してもらう。そんな契約だと以前母から聞いたことがあった。
「ん? さっきから僕のことを見つめて、どうしたんだい?」
「いえ。 今日の出で立ちも素敵だなって。」
のほほんとしているようで、伯父は意外にも策士なのだと感心するばかりだ。
「《桜ぁ、喉渇いた。》」
腰掛けにちょうどいい石を見つけ、口いっぱいにイカを頬張るアダム君を微笑ましく見つめていると、アダム君が甘えた声でおねだりをしてきた。
「どうやら喉が渇いたようだね。」
「では冷水をいただいてきます。」
確か先ほど冷水売りを見かけたなと立ち上がる。商人を探していると、
「ラキアス?」
一人佇むラキアスを見つけ、声をかけた。ラキアスはつまみ細工で出来た可愛らしい小物を扱う商人の前で、じっと商品を見つめていた。

