紺碧のアステリズム




異国からのお客様は、今日会った四人だけだった。本当に休暇についてきただけの私的な旅行らしく、一週間で伯父と共に都へ帰ってしまうらしい。ここにいる間は伯父の案内で観光を楽しむらしい。そしてこの度の訪問は本当に急に決まったらしく……



「ごめんね桜ちゃん。 こんなことまで……。」

「いえいえ、湯加減はどうですか〜?」

「ちょうどいいよ。」



宿舎のお風呂はまだ改装途中で使えないため、お風呂のみ母の生家で入ることになった。

伯父の気の緩んだ声に嬉しくなって、ふふっと笑みがこぼれる。その時だった。



「《何してるんだ?》」

「キャアッ!!」



窓からぬっと、ラキアスの顔が現れた。



「な、何してるんですか!?」



きょとんとしているラキアスに、この国の言葉では伝わらないと気づいて身振り手振りで訴える。一瞬だけ、少しだけ見えてしまったが、それ以上は見えないように、片手で視界を塞ぎながら、窓から離れるよう言う。



「《ダメ! 遠く! 行く!》」

「サクラー! サクラ、イル!」



アダム君の声にちらりとだけ見ると、レナードさんに抱きかかえられたアダム君が、覚えたてのたどたどしいアズマ言葉で私を呼びながら、窓から手を振っていた。その後ろにはジェームズさんもいる。



「み、皆さん座ってください! 伯父様ーっ!!」

「《あぁ、みんな、駄目だよ? この国の人はね、おいそれと人前で肌を晒したりはしないんだ。》」



伯父の声に、皆が離れる水音が聞こえる。母の生家には大きな五右衛門風呂がある。その使い方を教えるため、今日は伯父と共に皆で入っているという。



「《慈郎さん、桜さんは何をしているのかな?》」

「《湯加減を調節してくれているんだよ。 都の宿舎にもいるんだよ。 見えにくいけれど。》」

「《慈郎先生! 桜が持ってたあの棒は何だ?》」

「《アダム君、あれは棒ではなく筒になっていてね。 空気を送ることで火を強め、お湯を温めてくれる道具なんだ。》」

「《先生、桜は先生の姪なのに、下女なのか?》」

「《いやいや! アズマではねぇ……》」



何やらお風呂では会話が弾んでいるようだが、何を話しているのやら。火の番をしながら、本に手を伸ばす。少しでも会話ができるように、まずはアダム君との遊びに役立ちそうな言葉から覚えたい。彼らと話す機会は一週間しかないのだから。



「…がんばろう。」



異国の文化と触れ合える、最初で最後の機会。絶対に充実したものにしたい。

家に帰ったら…怒った祖母から、まとめた縁談を突きつけられるかもしれない。

柊太の顔がちらつく。

柊太は今頃…奉公先でどうしているだろうか。


懐にしまっている懐中時計を取り出す。何かの拍子で壊れてしまったそれを包むのは、柊太が染めてくれた花の模様があしらってある紺の布で作った巾着であった。それをぎゅっと手に包み込む。

柊太との結婚も、異国の文化を学ぶことも、何もかも、諦めずに済む国に…時代に生まれたかった。



「《レナード。》」

「《なんだいラキアス。》」

「《星は、どこで見ても同じだな。》」

「《そうだね。 …って、急にどうしたんだ? 変なラキアスだな。》」



話し声が聞こえて振り返ると、ラキアスも星を見ていた。夜空を映すラキアスの瞳は、昼とはまた違う青の輝きを放っていて…。その浮き世離れした光景に、自分がなんだか遠い異国の地にいる気分になって、柊太に無性に会いたくなってしまうのだった。