紺碧のアステリズム




宿舎は異国からのお客様を迎え入れるために、廃寺を洋風に改装・増築してつくられたと聞いていた。長い廊下を迷うことなく私の腕を引っ張って、アダムは駆ける。



「《ラキアス兄ちゃんはな、頭もよくて、魔導や剣技だって使える、超かっこいい兄ちゃんなんだ! レナードは兄ちゃんの護衛で、レナードも強いんだぞ!》」



青い瞳をキラキラ輝かせて、何かを私に教えてくれているようなのだが…。如何せん私は伯父のようには異国語を理解できない。

ご、ごめんなさいアダム君…!

それにも気にせず…というよりも気づかずに、アダムはずっと話し続けていた。



「《ラキアス兄ちゃんの部屋はここだぞ! ラキアース! 入るぞー!》」

「えっ、ノックしないと…!」



バンッと扉が勢い良く開く。向かいの窓が開いていたのだろう。ぶわりと風が吹き抜け、木の葉が横を過ぎていった。風が止んでから目を開けると、アダムの青よりも濃く、鮮明な青が目に入る。



「《…騒々しいな。》」



アダムよりもさらに金糸に近い、さらりとした髪。その間に見える青に、心奪われる。



「綺麗…。」



窓から差し込む光に反射して光る瞳に、思わず呟いた。まさか男の人に、そんな言葉をかけてしまうなんて思わなかった。けれどそれほどに芸術的な美しさだった。



「《ラキアス兄さん、一緒に遊ぼう! アズマにもいいヤツがいたんだ! 桜って言ってねって…ほら桜、ラキアス兄ちゃんだよ。》」



ぐいっとアダムに引っ張られ、ラキアスと呼ばれる青年の前に立たされた。



「えっ!? あ、あ、あのっ…!」



柊太よりも高いところから、異性に見下されるのは初めてだった。私よりも色白な、陶磁器のような肌のせいか。余計瞳の青が際立って美しく見える。



「《……お前、誰?》」



じっと顔を覗き込むように見つめ返され、恥ずかしくなって目を反らす。



「《桜、挨拶できる? 自己紹介…名前! 言える?》」

「え、あ! 名前…名前ですね!」



アダムが何をさせたいのか理解した私は、少し距離をとってカーテシーをする。



「《はじめまして、野々宮桜です。》」

 

何かを見定めるように、上から下まで、何度も視線が往復するのを感じる。早く何か言ってほしいのに、ラキアスと呼ばれる青年は何も言わない。そしてそのまま、窓の外に視線を向けた。



「《レナード、どう思う?》」

「《はい? 何がです?》」



ジェームズさんと並ぶくらい大きな男性が突然現れて、変な声が出た。



「《あ、レナード!》」



レナード?

その瞳を見てまた驚く。彼もまた、美しい青の瞳をしていた。しかしそれは、アダムの青ともラキアスの青とも違う、もっと明るく澄んだ青。銀の髪色に近い青だった。