「───遅かったな」



二階にある幹部部屋を開けた途端、待ち構えていたように飛んできた聞き慣れた声。


「翔真」

「なにかあったのかよ?」


じっとこちらを見つめる瞳から逃れるように視線を逸らす。



……ここで翔真にバレるわけにはいかない。



小さい頃から翔真だけはわたしの些細な表情の変化に気付くから、内心ドキドキと心臓が脈打つ。


視界の端でぐっ、と眉を顰めるのが見えた。


「んもう!それがね、聞いてよ!翔真!」
「……げ。智哉さん」
「ちょっとなによ、その反応は!」
「………なにかあったんスか」


智哉の厚い胸板に頭を抱き込まれている翔真がげんなりとした表情で問いかけると、翔真に見えない隙にわたしたちにウインクを決めた智哉が自然な態度で誤魔化してくれる。