「翡翠さん。このクソや……じゃなくて、この男に何かされたらいつでも言ってください。必ず叩きのめすので」
「はあ?」


椿と翔真がバチバチと視線を交えて火花を散らす。



それにしても、椿が翔真を叩きのめす……か。


「自分でやった方が強いからいい」


ガクンと大げさな仕草で肩を落とした椿に、ざまあみろと言わんばかりに得意げな顔をした翔真。




「………だから、椿はわたしを慰める係」




はっと顔を上げた椿が、ぱああっと顔色を明るくした。

なんだか全身から花が見えるような……そう、ワンコみたいかも。



「よろこんで!!」
「喜ぶなよ」


キラキラとした瞳の椿とは反対に、翔真はやれやれと言わんばかりに眉根を寄せた。



「これが飴と鞭ってこと……?いいように転がされてるなあ、ふたりとも」


誰の耳にも入らない声で、ぼそりと千佳が呟く。


「いやあん!翡翠きゅんったらす・て・き!!」
「………いや、3人か」


「───千佳」
「なあに?スイちゃん」




「────お前もだよ、千佳」




わたしに返事を返すその緩みきった顔に、翔真がそう言っていたなんて、そのときのわたしは知らなかった。