「ただいまー」
誰もいない家に、挨拶をする。
汐琉は遅くなるし、お母さんはいないし、お父さんもいない。
お母さんは、私が中二の時に死んだ。
お父さんは、ずーっと出張中だし、たまーに帰って来るけど、遅くに帰って来て、早くに出発するから、全然会えない。
……汐琉の病気は、お母さんからの遺伝だ。
「……かるた、か」
なんで、私は優勝しちゃったんだろう。
わざと負けることだってできたはずなのに。
…………やっぱり、心の底では、かるたやりたい、って思ってるのかな。
「考えても無駄、かな……」
だって、私はもうかるたをしないって決めたから。
もう二度と、同じ過ちは繰り返さない、って決めたから。
……汐琉が生きている限りは、絶対に――。
「ごめんなさい、かるた部の皆さん。私は、……入りません」
かるたをやることは、できないのだ。
汐琉の為にも。
……違うかもな。
私の為かもしれない。
ただの、自己満足なのかもしれない。
「はあー……。ダメだダメだ。埒が明かない」
そうだよ。
こういう時こそ……。
……なにすれば良いんだろう……?
「……勉強かな」
……それにしても、朝吉くんがかるた部に入りたいなんてな〜。
ちょっと意外。
朝吉くんって、もっと、なんていうか、こう……。
あっさりしてる感じなんだよね。
なにかを、真剣にやりたい、って思わなさそうな。
部活も、入る気全くなさそうだったし。
……まあ、ああいう人って、大体過去になんかあるからな〜。
変に聞いてもねー……。
……っていうか、朝吉くん、苦手な花山さんが居ても良いんだね……。
私だったら、嫌、かな~。
嫌いな人とか、苦手な人がいる部活には入りたくない。
ピコンッ
「……裕理ちゃんだ」
裕理ちゃん――高天原 裕理ちゃんは、私の友達。
中学から一緒の友達。
裕理ちゃんも、すっごく頭がよくて、いっつもテストでトップを争っていた。
裕理ちゃんは、ずーっと将棋一筋。
私、将棋のことはよく分からないんだけど、なんか強くて、初段 ? らしい。
そんな感じだった、うん、多分。
『ふくか!今日かるた大会優勝してたじゃん!すごい!さすがふくかだね!
将棋も、なんか校内大会とかないのかな~?まあ、時間がかかっちゃうか(≧▽≦)』
裕理は、明るくて、活発な子。
そして、私がかるた一筋"だった"ことを知っている。
多分、理由は勘づいてるんじゃないかな。
……ああ、でも、勘違いしてるかもな~。
『ありがとう♥ゆうりちゃん
将棋はどんな感じ?』
『うーん……。最近、強敵が現れたんだよねー。陸奥 隼仁っていうやつ。すっごい強いの!
だから、まあ、陸奥に負けないように頑張ってるよ』
はあ、いいな~。
裕理ちゃん。
好きなことを、やりたいことをできて。
……私は――。
「ただいま~、姉ちゃん」
「おかえり、汐琉」
夕飯の準備をしていると、汐琉が帰ってきた。
汐琉は、すごく楽しそうだ。
「今日さ、優斗と明也と啓とゲームしたんだ!で、途中から守も入って来て……。俺、優斗に勝てたんだよ!初めて!……で、優斗の家でやったんだけどさ。その、優斗の妹の悠香ちゃんが、すっごく可愛かったんだよ♥まだ、三歳とかでさ。もー、みんなメロメロで……」
「はいはい。分かったから。続きは後で聞くよ。とりあえず、ごはん食べよ!」
汐琉は、話し出すと止まらない。
そこが長所であり、短所だ。
「……はーい」
「……それでね!悠香ちゃん、めっちゃ懐いてくれたんだ!あ、でも、友実さんに一番懐いてた!そうそう!友実さんね、俺の好きな菓子覚えててくれてたんだよ!しかも、めっちゃ優しい!……もちろん、姉ちゃんも優しいよ?」
友実さんは、優斗くんのお姉さんで、私と同じ高校一年生。
すっごく、大人っぽくて、優しくて、頭がいい。
確か、私立の賢い高校に通ってるんじゃなかったかな。
メイサイ学院高等学校。
私立の中高一貫校。
私の小学校の頃の同級生、絢瀬 美遥ちゃん、っていう賢い子が通っている学校。
「……でさ、啓が~、弟の写真見せてくれてさ~。京介くん。五歳くらいだったと思う。それで――」
……やっぱり、汐琉は、話し出すと止まらない。



