交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

「小春ちゃんは今幸せかい? いいよね……人の気も知らないで」

「あ、あの木谷さん、いったいなにが?」

「いったいなにが、だって?」

木谷さんは目を細め、嘲笑を浮かべた。

「僕のこと、見ちゃったんなら逃がすわけにはいかないな」

その声は呪いみたいに温度がなかった。ぞわっと背筋を冷たい何かが這う。心は叫んでいたのに、身体は金縛りにあったように動けない。

「全部あの男のせいだ」

木谷さんは俯きながらボソッと独り言のようにつぶやく。

「高城が余計なことをしたせいで、ホテルの建設は結局計画倒れ、おかげで父からは降格処分を受けて……くそっ」

込み上げる怒りに木谷さんが握りしめた拳を叩きつけるように振り下ろした。

「だから、もうすべてが嫌になったんだ。君の店なんてもうどうでもいい」

「だから浅見屋に火をつけようとしたんですか?」

「ククッ……あはっ、はっ」

口元を押さえ、木谷さんは肩を震わせながら明らかに私を嘲るように笑った。

「君って本当に馬鹿だよね、僕のことなんか見て見ぬふりして逃げればよかったのに、姿を見られたら、逃すわけにはいかないだろう?」

木谷さんの瞳の奥に渦巻くどす黒いものを見て、ドクドクと心臓の鼓動がずっと速くなる。どうしてこんなときに限って「誰か!」のひとことが出てこないのだろう。

怖い、助けて――。

私に伸びてくる木谷さんの指先にギュッと目を閉じたそのときだった。