目深に帽子をかぶってはいたけれど、なんとなく私はその人影に見覚えがあった。一瞬の静寂のあと、その人影がこちらへ向かって走って来た。私はハッと我に返って踵を返し、走りだそうとしたけれど、ガシッと肩を掴まれた。
「離して!」
力づくで向き直させられて、私も負けじと相手のかぶってた帽子を掴んで振り払うように手を振った。そして、月明かりがその素顔を照らす。
「えっ……」
その瞬間、空気が止まった。
「き、たに……さん?」
私が彼の名前を口にしたら、その表情が力なくふにゃりと歪んだ。
「久しぶりだね。小春ちゃん」
見るからにやつれた体。ボロボロの服。伸びきった髪と髭。つい先日、木谷ホテルズのロビーで会ったときはパリッと高そうなスーツを着こなし、後ろに撫でつけた髪も整えて、清潔感のあるいかにも御曹司といった風貌だった。けれど今、私の目の前にいる木谷さんのその顔は痩せこけ、目は落ち窪み、皮膚は日焼けと垢で黒ずみ――。
まるで、別人のようだった。
「どうして、こんなことを……?」
木谷さんは笑った。乾いた、壊れたような笑いだった。
「離して!」
力づくで向き直させられて、私も負けじと相手のかぶってた帽子を掴んで振り払うように手を振った。そして、月明かりがその素顔を照らす。
「えっ……」
その瞬間、空気が止まった。
「き、たに……さん?」
私が彼の名前を口にしたら、その表情が力なくふにゃりと歪んだ。
「久しぶりだね。小春ちゃん」
見るからにやつれた体。ボロボロの服。伸びきった髪と髭。つい先日、木谷ホテルズのロビーで会ったときはパリッと高そうなスーツを着こなし、後ろに撫でつけた髪も整えて、清潔感のあるいかにも御曹司といった風貌だった。けれど今、私の目の前にいる木谷さんのその顔は痩せこけ、目は落ち窪み、皮膚は日焼けと垢で黒ずみ――。
まるで、別人のようだった。
「どうして、こんなことを……?」
木谷さんは笑った。乾いた、壊れたような笑いだった。



