交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

「別れよう」そう言ってしまったのはもう取り消せない。後悔してももう遅いんだ。でも、私と別れることで高城さんが自由になれるのなら――。

カサッ。

……ん?

夜風に吹かれながら悶々と考えていると庭のほうから小さな音がした。最初は風の音かと思ったけれど、なにかが変だ。

――違う。あれは、足音だ。

そう思った瞬間、心臓がひとつ跳ねた。庭の植木が微かに揺れてじっと目を細めて凝視すると――いた。人影だ。男性のように見えた。黒っぽいシャツにキャップ。しゃがみ込み、何かをいじっている。

ど、泥棒⁉

声が出ない。喉がカラカラだ。足が勝手に後ずさる。

どうしよう? 家で寝ている祖父母を起こす? 警察を呼ぶ? スマホは……こんなときに限って部屋に置いてきてしまった。すると、その人影は店の壁に何か液体をかけていた。しばらくして、ポケットから何かを取り出すのを確認する。

ま、まさか……ライター?

次の瞬間、私の背中を冷たい汗が流れた。火をつけようとしている。放火だ。足がすくんでどうしようもなかったけれど、ここでなにもしなければ店が燃えて祖父母もきっと火の海に呑まれてしまう。

「やめて!」

咄嗟に叫ぶとその人影がびくっと体をのけぞらせ、顔を上げた。

え……。