交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

時刻は二十一時。

話し込んでいたらすっかり遅くなってしまった。こんな話を聞いた後でこれからマンションへ帰る気力もなく、今夜は実家に泊まることにした。

独身のときに使っていた自室へこもると、「うぅっ」と短く声が出た。咄嗟に口元を抑えるけれど、今度は目から涙がこぼれてきた。

高城さんと今まで築き上げてきたものっていったいなんだったのだろう。夫婦として歩み寄れていると思っていた。けれどそれは彼にとっては両親を奪ったという責任感と私を守らなければならないという義務感からだった。そこに高城さんの気持ちなどないのだ。
あふれる涙を手の甲でグッとぬぐうと同時に私のバッグの中からスマホの着信が聞こえた。こんなときに誰とも話したくない。だけどその着信音に急かされるように私はスマホを手に取った。

「もしもし?」

『小春?』

電話は高城さんからだった。まだ仕事中で外にいるらしく、彼の声の向こうから雑踏が聞こえた。

『どうかしたのか?』

まだ「もしもし」としか言葉を発していないというのに、高城さんはわずかな声の異変を察知する。

「いえ、なにもないですよ、高城さんこそどうしたんですか? まだお仕事中ですよね?」

『あぁ、でもそろそろ落ち着きそうだ。それより身の回りは大丈夫か? 浅見屋は?』

嫌がらせの件を心配して連絡してきてくれたんだ。そう思うと、離れていても守られてる気がして心強かった。だけど、そういうのも全部彼にとっては義務感なのだ。

「高城さん、私たち……別れましょう」

言ってしまった。